- 夜更かし -



「もう遅いよ?」
「うん」
何度目かの義之の言葉に短く答えて、次のDVDを選ぶことに集中する。今日はもう少しリビングで一緒にいたい。
里桜にしては珍しく、日付が変わろうかという時間まで起きていた。眠くなるピークが11時過ぎの里桜にとっては非常事態と言ってもいいくらいだ。それがわかっているだけに、義之がやんわりと里桜の手を止めた。
「また明日でも明後日でも見られるよ」
「そうだけど」
不満げな里桜を引きよせて、膝へと抱き上げる。
「早く寝ないと明日はどこにも行けなくなるよ?」
里桜は特に朝が苦手というわけではないが、必要な睡眠時間8時間を逆算すると、今すぐ眠っても起きるのは8時以降ということになる。
「どこか行くの?」
「イルカを見に行こうかと思うんだけど、どうかな?」
「行きたい!」
「じゃ、そろそろ寝ないとね」
「うん」
結局、いつものように義之に言いくるめられてベッドルームに行くことになった。今日こそは夜更かししようと頑張っていたのに。
「義之さんはまだ起きてるの?」
「そうだね、少し早いかな」
里桜はとっくに眠気のピークを越えているのにまだ早いなんて、睡眠時間が短くても大丈夫な大人は得だなと思う。
「いつも何時間くらい寝るの?」
「5時間くらいかな?もっと長い時もあるけど」
「ずるいなあ」
「どうして?」
「俺より3時間も得してる」
「まあ、里桜はまだ成長期だから仕方がないよ」
ちっとも成長していなくても成長期というのだろうか。
「義之さんも俺くらいの時はよく眠った?」
「君くらいの時には結構遊んでたかな」
里桜には“遊ぶ”の意味が正しく理解できなかったが、義之には元々あまり睡眠が必要ではなさそうなことだけはわかった。
「不公平だなあ」
「もっと遊んでおきたかった?」
「ううん。友達にもね、すごい偏食なのにデッカイ奴がいるんだ。俺は好き嫌いもないし早寝早起きなのに何で大きくならないのかな」
「遺伝かな?」
確かに、里桜の両親とも大きな方ではない。
「なんでそんなに大きくなりたいの?」
さすがに、少しでも早く義之に近付きたいからだとは言えなかった。13歳の年齢差以上に感じる自分の子供っぽさを克服する一つの手段として、早く大きくなりたいと思っている。
「えっと、周りに比べてちっちゃいからかな?」
「稀少価値だと思えばいいのに。僕は今のままの方が好きだな」
「大きくならない方がいい?」
今までにも何度となくくり返された会話だったが、その言葉がただの慰めではないらしいことにようやく気付いた。
「大きくなっても好きだと思うけど、今の方がいいかな」
義之が小さい方が好きなのなら、大きくなったら困る。
「じゃ、大きくならなくてもいいかな」
好きな人の一言というのは、どうしてこんなにも影響力があるのだろう。
「もう1時近いよ?」
「うん、もう寝るね」
早く寝ないとイルカに会うのが遅くなってしまう。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
短いキスと腕枕で、我慢していた睡魔が一気に襲ってきた。
そもそも、夜更かししたいと思うのは少しでも長く義之と一緒に過ごしたいからだ。早く寝てしまうのはもったいないと思う。
でも、里桜の睡眠時間が変わらない以上、早く寝るかどうかはあまり問題ではないことにはまだ気付いていなかった。


- 夜更かし - Fin

【 パジャマ 】     Novel     【 ピロートーク 】


相手の望むようになりたいと思うのは、相手のためというより自分のためですね。
でも、何もかも相手の望むままの姿になったら、
興味が失くなってしまうような気がするのは私だけでしょうか……。