- ピロートーク -



義之の腕の中の疲れた体が睡魔に奪われそうになる。
「里桜?」
「う……ん」
何とか引き止めようと思うが、意識はすっかり眠りの淵に落ちているようだ。幼い恋人は日頃から早寝で眠りが深く、一度寝入ると起こすのは困難だった。
「里桜」
義之の肩口に乗せられた頭は完全に力を失くしていて、何をしても為すがままだ。髪をすいて幼い額をさらしても、軽く頬を引っ張っても、殆ど反応はなかった。
耳元へ落とすキスにもわずかに肩をすくめるだけで、瞼は開きそうにない。少し強めに耳たぶを噛んでみる。
「う……ん」
払おうと上げる片手さえ、義之に掴まれて力を失くす。
休日の前夜くらいは夜更かしをして、甘いことを語り明かしてもいいのではないかと思うのだが。
満足そうに寝入ってしまう恋人を少し物足りなく思うのは贅沢な悩みだろうか。
腕枕をしていない方の手で背中を抱きよせる。無防備な腰を伝って、ついさっきまで義之を受け入れていた場所を撫でる。まだ熱っぽくて、指で探ってもそう強い抵抗はなかった。
「ぁん……」
弛緩していた体が反って、投げ出されていた腕が義之の首へギュッとしがみつく。
「里桜?」
「いや」
無理に眠りを妨げたせいか、少し邪険な仕草で首を振った。
「もう少しつき合ってくれないかな」
里桜の体を自分の上に引き上げる。逃げようとする腰を掴んで、指で突き上げると華奢な腰が跳ね上がる。
「だ、め……」
泣きそうな声は掠れて、義之の胸元へ置かれた手が距離を取ろうと突っ張る。相手は子供だとわかっているのに、すぐに欲情する自分はどこかおかしいのかもしれない。そう思っても、抱きたくなると自制がきかなくなってしまう。浮いた腰を引きよせて、ゆっくりと昂ぶりへと下ろしてゆく。
「ん、あ……あん」
里桜の目尻を濡らす涙に胸が痛まないでもない。でも、その体の全てが義之のものだと実感しないことには納まりがつかなかった。
「まだ寝てるつもり?」
「なん、で」
恨みがましい眼差しを義之に向ける。どうやら里桜の優先順位は睡眠が一番で、次いで食欲、もしかしたら義之はそれ以下なのかもしれないとさえ思う。
「里桜を取られそうだったから」
「え?」
「僕は里桜が一番なのに」
きょとんとした顔もかわいいと思う。時々もどかしくなることもあるが、天然なところも好きなのだからどうしようもない。でも、いつも義之の方を向いていないと許せない。
「んっ……」
まだ自覚の足りない恋人に、義之の思い入れの深さを何度でも刻みつけなければならないと思う。相変わらず、覚悟を軽くしか受け止めていない恋人に。


力を失くした体が義之の胸元へ倒れてくる。憔悴しきった表情の里桜は、もう深い眠りに奪い取られてしまったようだった。疲労が上乗せされたせいで、もう並大抵のことでは呼び戻せそうにない。
知らずにため息が口をつく。やはり、里桜とピロートークを交わすのはまだまだ先になりそうだった。


- ピロートーク - Fin

【 夜更かし 】     Novel       【 二度寝 】


初めて義之サイドから書いてみました。
ピロートークというお題なのに、里桜はすぐ寝てしまうし、
義之サイドから書くとすぐエロいことしようとするし(^^ゞ
そういえば、お題初えっちではないでしょうか。
だからどうということもないのですが、密かに、二度寝に続きます。