- 腕枕 -



今夜も添い寝に訪れた恋人に、断るかどうか迷った。
義之は、夜11時台に睡魔のピークが訪れる里桜のために毎晩腕枕を提供してくれている。けれども、つい最近まで知らなかったが、義之が就寝するのはもっとずっと後らしかった。
義之は里桜が寝入ってから起き出して、持ち帰った仕事をしたり、パソコンに向かったり、いつも深夜まで起きているらしい。
一般的な大人なら、早朝勤務でもない限り11時から眠ったりはしないらしい。
でも、一人っ子の里桜はずいぶん甘やかされて育てられてきたと自覚していたが、恋人兼保護者の義之の過保護ぶりには嬉しいというより呆れそうになる。
「里桜は成長期だから、しっかり睡眠を取ったほうがいいよ」
「睡眠を取ってるわりにちっとも背が伸びないんだけど」
高校に入ってから、全くといっていいくらい身長も体重も増えていない。しっかり食べてよく眠っているわりに成長はもう半年ほど前に止まってしまったような気がする。
「僕は今のままでもいいと思うよ?抱き枕にもちょうどいいし」
「え?」
よもや自分が枕になっていたとは思わなかった。枕になってくれているのはいつも義之の方だと思っていたのに。
「里桜はサイズも抱き心地もいいしね、あまり成長し過ぎないほうがいいかな」
「俺は早く成長したいんだけど」
義之とは年齢も開いているが、身長もかなり違う。いろんな意味で、義之と里桜の距離はなかなか縮まりそうにない。
「里桜は今が一番かわいいんだから、なるべくゆっくり大きくなってほしいな」
それはつまり、子猫や子犬といった愛玩動物と同様のかわいさということだろうか。抱き枕と言われるくらいだから。
「里桜?」
黙り込んでしまった里桜に、義之が心配げな声を出す。里桜がヘコみそうになったことに気付いてくれたらしい。
「心配しないで、たとえ君が今の姿からは想像もできないような大男に育っても愛してるよ」
「うん……」
義之の気遣いは少し的外れで。そもそも里桜は今までそんな心配をしたことはなかった。両親や祖父母を見ても、そんな体格の良いタイプはいない。きっと自分もこのまま、男らしく育ったりすることはないのだろう。
「それに、ペットにはこんなことできないよ?」
唇に囁かれる言葉が、口移しに伝わってくる。そのまま深く絡んでくるキスに少しだけ安心した。
気付かれていなかったわけではないらしい。
「里桜は寝入ったら少々のことじゃ起きないしね」
「え?」
その含みのある言い方にドキリとした。
「まさか、俺が寝てる間に何かしてるとか?」
「そんなたいしたことはしていないよ?ちょっとここらへんを結んでみたりとか」
義之が里桜の髪の横を軽く掴む。
「ちょっと猫耳をつけてみたりとか」
「ええっ」
「ちょっと携帯の待ち受けにしたりとかしてるくらいだよ?」
「そ、それ、ちょっとじゃないから!」
「里桜が起きないくらいだからちょっとだよ?そのうちメイド服とかも着せてみたいなあとか思ってるんだけど?」
「俺、今日から安眠できなくなりそう……」
「冗談だからそんなに心配しないで。早くおやすみ」
どこまでが冗談なのか、もしかしたら全部本気なのかもしれない。
少し強引に腕枕に引きよせられて、抵抗するのは諦めた。でも、いつかこっそり義之の携帯を覗き見してみようと思った。


- 腕枕 - Fin

【 おやすみ 】     Novel     【 パジャマ 】  


他人に見られて困るような待受けにしてる人はあまりいないと思いますが、
もしかしたら義之の待受けは、ゴスロリの里桜になってるかもしれないですね。