- 寝言 -



里桜の寝顔を眺めながら、義之は一回り以上も年下の恋人にすっかりハマってしまっていることに自嘲した。
つい先日も、久しぶりに会った友人に里桜の話をして呆れられたばかりだ。自分でも、らしくないと思っているが、執着する気持ちを抑えられないのだから仕方がない。
高校1年生という年齢以上に幼な過ぎる恋人は、義之には少々物足りなく感じる時もあるが、それ以上に独占欲をかき立てさせられていた。
特に幼さを感じるのは里桜の生活スタイルだった。夜は11時には眠気を訴え、朝は7時頃まで爆睡していることが多い。無理に起こしてみたこともあるが、睡眠不足はあからさまに全身に表れて、却って二人の時間を短くしてしまうことがわかった。それ以来、なるべく里桜の睡眠を優先させることにしている。
長い夜を一緒に過ごせないのは残念だったが、寝顔を見ているだけでも、かわいくて愛おしくて、癒されるとはこういうことなのだと気付かされた。
ただ、その満ち足りたようにやさしい時間が、不意に壊される時がある。
里桜はよく寝言を言う。その殆どは、“いただきます”とか“おいしそう”とか、いかにも食べ物の夢を見ているのだと推測できるような言葉だった。
でも、同じように幸せそうな表情で、誰かを呼ぶことがあった。はっきりとは聞き取れない曖昧な言葉でも、里桜の唇の動きで誰を呼んだのかわかってしまう。
呼ぶのはいつも、里桜を死ぬほど愛していて大切にしていただろう前の恋人の名前だった。おそらく、義之が卑怯なことをしなければ、今も里桜と幸せに過ごしていたに違いない。
「里桜」
耳元に口付けるように名前を呼ぶと、義之の首へと腕を回してくる。
里桜は何度も否定しているが、こんなリアクションを取られて、体の関係はなかったと言われても信じ難い。
耳の後ろへと唇を落として、痕を残すようなキスをする。そのまま首筋から喉へと唇でたどりながら、パジャマの胸元を片手で探った。指先に引っかかる尖りを見つけて摘む。
びくりと身を震わせて喉を反らせる里桜が甘い吐息を洩らした。義之を抱きしめる腕に力がこもる。
ボタンを外してそこへ直に触れた。今にも蕩けてしまうだろうと思った里桜の腕が、不意に距離を取ろうと躍起になる。
「いや」
思いがけず強い抵抗に、少し乱暴に肩と手首を押さえつけた。
「いや」
泣きそうに歪められた顔が、拒否の言葉をくり返す。意外なほどの強さで肩を揺らす里桜を起こすために、はっきりと呼びかけた。
「里桜」
はっとしたように瞳を開いた里桜が、義之を認めて息をついた。
「義之さん……?」
「うなされてるようだったから起こしたよ?」
その元凶は間違いなく義之だったが、何もなかったような顔で声をかけた。状況を飲み込めずに首を傾げる里桜に、短いキスをする。
「どんな夢を見てたの?」
「え……ううん」
頬を染めて俯く里桜を見ていると、自分の嫉妬がつまらなく思えた。
どうやら前の恋人は義之のように強引ではなかったらしい。今更ながら、幼い里桜に合わせていたという前の恋人の忍耐力に感心した。
「寝直そうか?」
「義之さんももう寝るの?」
里桜に腕枕と添い寝をするために一緒にベッドに入り、寝入れば抜け出すはずだったが、どうしようもないくらい離れ難くなっていた。
「そうしようかな」
「じゃ、おやすみなさい」
「おやすみ」
もう一度、里桜の唇にキスをして腕に抱きよせる。義之の腕枕にくるまって、里桜が嬉しそうに目を閉じた。
夢の中でも、誰にも取られないように、里桜をしっかり抱きしめた。


- 寝言 - Fin

【 シーツ 】     Novel       【 ナイトキャップ 】


ごめんなさい、甘過ぎたかも……。
最近、甘々欠乏症気味なのかもしれません。
それとも義之の視点だからでしょうか。
この調子で甘々路線を突っ走りたいものですねvv