- Love And Chain.(5) -



ぎこちなく、淳史の上着を掴んで押し返してしまう。
玄関先で交わす挨拶のキスにさえビクついている優生に、騙すなどということができるわけがなかった。
「優生?」
訝しげに優生の顔を覗き込む淳史の顔がまともに見られない。疑われているような思い込みで息が苦しくなる。
「……うん」
無骨な指が優生の小さな顎にかけられた。
「こっちへ向けよ?」
どうしても目を見つめるのが怖くて、つい視線を落としてしまった。
「何かあったのか?」
「……ううん」
「優生」
脅されているわけでもないのに、いつも耐え切れずにあっさりと降参してしまう自分の弱さに唇を噛んだ。
「……ごめんなさい」
「まさか、また襲われたなんて言わないでくれよ?」
そう言いながら、否定するような響きの籠った言葉に、曖昧に首を振る。
「……襲われたわけじゃないんだけど、でも」
「どういうことだ?」
おそらく、容易に思い浮かんだはずの事態を否定したがっているような淳史に、何と言えばいいのかわからない。
「優生?」
壁へと押し付けられた体が痛む。浮気をしたと告白するべきなのか、俊明の仕返しにつき合ったと言葉をすり変えるべきなのか、いっそ何でもないとしらばっくれてしまうべきなのか迷った。
「言えないようなことか?」
暖房の効いていない玄関先でシャツをはだけられて小さく震えた。見てわかるような跡は付けられていなかったはずだったが、肌寒さと疚しさが身を竦ませる。
「誰に触れられた?」
見ただけでわかるはずがないと思うのに、淳史の断定的な言い方に何も返せなくなってしまう。
「ぁん……」
指先で軽く触れられただけで、全身がビクビクと震えてしまうほど感じてしまう。固く尖っていく先端が不自然に充血していたことに自分では気付いてなかった。
「ん、ああっ」
温かな粘膜に包まれると痛いほどに感じた。緩く吸われただけで脳まで快感が走る。
立っていられなくて淳史の腕にしがみついた。潤んでくる視界には怖い顔を捕らえているというのに、体を駆ける甘い感覚から逃れることができない。
「相手は誰だ?」
冷たい声が優生の耳朶を打つ。小さく首を振る優生の着ているものが一枚ずつ奪われてゆく。
「あっ……」
中心をキュッと握られて、痛みのためではない声が洩れた。いつの間にか、寒さを感じないほど体は昂ぶっていて、少しくらい手荒に扱われても、いっそ気持ち良くなってしまうほどだった。
「は、ぁんっ……ああっ……」
いきなり後ろへ入ってこようとした指を反射的に押し返したが、探るように奥へ進んでくると、次第に体は甘く蕩け始めた。
「誰が、おまえをこんなにしたんだ?」
低い声に、耐え切れずに小さく呟いた。今だけでなく、こんな風に淫らに育ててくれたかつての恋人の名前を。
「……どうして、俊明が」
優生を抱く腕から力が抜けてゆく。不意に投げ出された体が淳史に縋る。
「心配してくれて……ピアノのことも、あったし……」
「何の心配だ?」
怒りに目元を染める淳史が何かをしでかしそうで、思わず庇う言葉を口にしてしまった。
「淳史さんがしてくれないって言ったから……上手くいってないんじゃないか、って……」
「どうしてそんなことを俊明に話すんだ? 足りなかったら俺に言えと言っただろうが」
目元を眇める淳史に怯えて、反論する声が掠れる。
「だって……そんな気にならないって、言ってたから……」
淳史が訝しげな顔でその記憶を辿っているのが見てとれた。
「……まさか、俺はいいと言ったことか?」
頷く優生の肩が乱暴に掴まれる。信じられないものを見るような眼差しが、憤りに塗り替えられてゆく。
「そんな理由で浮気したのか? おまえ、俺の言ってることをちゃんと理解してるのか?」
「じゃ、淳史さんは俺の言ったこと、ちゃんと聞いてくれてた?」
そんな口の利き方をしていいはずがないとわかっていたが、自分を抑えることができなかった。
「優生」
「俺は、入れられるのが好きだって言ったよ? そうじゃなきゃ、自分で抜けば済むんだから」
逆ギレしてしまったのは、自分の台詞があまりにも情けなかったからかもしれない。驚きで言葉を失くす淳史の表情が苦しげに歪んでゆく。
「……俺が悪かったって言うのか? して欲しかったんなら、もっとわかりやすく言えよ。あれで分かれっていう方がムリだろう?」
「だって、疲れてるって言ってたし……」
「それが浮気をしていい理由になるとでも思ってるのか?」
「そういうわけじゃ、ないけど」
掴まれていた肩を引きよせられて胸元に抱きしめられる。覆い被さるように高い位置から声が響いてきた。
「前にも言ったと思うんだが、おまえは他の男に抱かれても何とも思わないのか? それとも、まだ俊明に気持ちを残しているということなのか?」
「……サカってただけだよ」
「相手が好きでもない男でも平気なのか? 少しは俺に悪いと思わなかったのか?」
その時は、目の前にある快楽を追うのに必死で、それほど強い罪悪感はなかったと思う。苛まれたのは手遅れになってしまってからだった。
「……ごめんなさい」
「俺はおまえに惚れてから、他の誰かでもいいと思ったことはないのにな」
嘆息するように囁かれた言葉に、急速に罪の意識が膨れ上がってゆく。少し前まで、優生はそんな風に考えたことがなかった。ただ淋しさを埋めてくれさえすれば、その最もわかりやすい手段が体を繋げることだと思い込んでいた。それができるのがただ一人なのだとは知らなかったから。
「おまえの“好き”と、俺のは違うんだな」
以前、淳史のそれは錯覚だと言ったが、はき違えていたのは優生の方だと言いたげな口ぶりだった。今なら、淳史の言うことがわかるような気がしたが、今更そんなことは言えずに、淳史の背に回した腕に力を籠めた。
「好きじゃなくてもできると、おまえが言ったんだろうが。そのくせ、しないのは愛してないからなのか?」
その矛盾に反論する言葉が出てこない。
「抱いた回数が多い奴ほど、おまえを一番愛してるとでも思ってるのか?」
「そういうわけじゃ、ないけど……」
淳史の言い分は尤もだと、今なら優生もそう思うと素直に告げることができなくて。
「それで安心するんだな?」
違うと言えない優生の、首筋へと滑ってゆく唇が肌に痛いほどの跡を残してゆく。今まで、淳史はそんな風に所有を主張することはなかったのだったが。
「そんなところに、跡を付けないで」
「もう誰かに見られる心配もないのに、か?」
その意味がすぐには掴めず、淳史の目を見つめ返す。
「え……」
「俺がそんなに寛大だとでも思っていたのか? おまえを逃がさないためなら監禁でも拘束でもすると言っただろうが」
「俺、どこにも出掛けてないし、約束も破ってないよね?」
「浮気しない約束はしていないと言うつもりか? そんなことまでルールを作らないとわからないのか?」
「でも」
「無理矢理襲われたと言うんならともかく」
そう言われても、全ての責任を俊明に被らせることはできなかった。誘惑に負けて、殆ど抵抗することなく受け入れたのは事実だ。ただ、一度くらい仕返しをしたいと言った俊明を拒否してしまうことができなかったのも真実だったのだが。
「ごめんなさい」
謝ることで余計に淳史を怒らせることになるとわかっているのに、考えるより先に口にしてしまっていた。
「覚悟してるんだろうな? お前にも部屋にも鍵をかけると、言ってあったな?」
「そんな……だって、淳史さんは俺としたいわけじゃないんでしょ?」
ペナルティを課される前に、どうしても聞いておきたかった。なぜ、こうまで淳史が優生を束縛したがるのかを。
「したくないわけがないだろう」
「じゃ、釣った魚に餌はいらないってこと? 自分のものになったから興味が無くなったの?」
「そうじゃない、おまえより少しサイクルが長いだけだ」
「そうかな? ふつう、最初は珍しくて、凄く短いスパンでしたがるものだよね?」
「おまえの今までの男はみんなそうだったのか?」
そうだと言ってしまえず、言葉に詰まってしまう。
「俺は、おまえほど抱いたかどうかに拘る奴を知らなかったからな。それほど重要なことだとは思わなかったんだ」
「だって……淳史さん、いつも手加減してるっていうか、余裕のある所でしかしないし……」
「手を抜いてるとでも言いたいのか?」
「そんなんじゃなくて、上手く言えないけど淳史さんは全然がっついたりしないし、いつもゴム使うし、なんか余裕があるっていうか」
少なくとも、衝動的に突っ走ってしまうようなことはないと思う。
「大人になれと言ったり、10代のようにサカってろと言ったり、おまえの言うことには一貫性がないな。これからはゴムを使わないで外に出せばいいのか?」
「そんなこと言ってるんじゃなくて……淳史さんは、ナマでしたいと思わないの? 俺の中に出したいと思うことはないの?」
そんな風に、制御できない感情で優生に自分の印を刻みたいと思うことなどないのだろうか。何時間か前の俊明のように、優生を直接感じたいとは思わないのだろうか。
「……最初の時に、途中で外に出されたくないようなことを言ってただろう? でも中で出すと困るんだよな? おまえは俺にどうして欲しいんだ?」
「そんなの、その時の気分で変わるものでしょ? 淳史さんは我慢できなくなることはないの? どうして何日もしなくても平気なの?」
驚いたように目を瞠られて、優生の心配が杞憂だったことを知った。
「我慢がきかずに負担をかけたことがあるからな、抑えないと傷付けるかもしれないと肝に銘じてるんだ。それに、今はそんな無理をさせなくても、腕に抱いているだけで満足できないこともないしな」
「傍にいるだけでいいんなら、体まで束縛しないで? 俺はそれだけじゃ足りないんだ」
「逆か……おまえを手放さないでおくためには体を縛った方がいいんだな?」
「いや」
もしかしたら、本当に縛られるのかと身構えてしまった。
頬を撫でた手が顎を上向かせてキスを誘う。怖々と上げた目が合った途端に、反射的に閉じてしまった。見透かされるのは怖い。
怒っているのだと思っていたが、淳史のキスはやさしかった。長いキスのあと、静かに抱き上げられて、寝室へと運ばれてゆく。
優生を抱いたままでベッドの縁に腰を下ろす淳史が、無骨な手で頬を包んだ。
「俺の勝手に抱いていいんだな?」
確かめるように瞳を覗き込まれて、せいいっぱいの強がりで頷いた。淳史がそんな乱暴なことをするはずがないと思うのに、その捕食者然とした雰囲気のせいか体が勝手に震えてくる。自分から、衝動のままに抱いて欲しいと言ったも同然だというのに。
淳史の膝に座らせられた姿勢から、うつ伏せになるようにベッドへ倒される。淳史が服を脱ぐ音を背後に聞きながら待つ時間がひどく長く感じた。
「ひゃんっ……」
不意に尾骨の辺りに触れた濡れた感触に飛び上がりそうになった。腿の内側から両手で押し開くように力を入れられると腰が浮いてくる。唇が入り口をやわらかく吸う。
「っふ……や、んっ」
身を捩ると、その中へと厚みのある舌が入ってきた。なぞるように舐める舌が奥へと進んで中を濡らしていく。
膝を立てさせられた姿勢で腰を高く掲げられると、深くまで貫かれそうな予感に不安が入り混じった。欲しい気持ちに相反して、入ってくる時の衝撃だけはいつまで経っても慣れない気がする。まして、淳史のように半端でない質量で一息に押し入って来られたらと思うと身構えずにはいられなかった。
「力を抜いてろ」
「ん……」
意識して息を吐きながら、受け入れる時の不安より、その後の快楽を思おうとした。
「入れる時にはいつも泣きそうな顔をしてるのにな」
「え……あっ……くっ……やぁっ……んっ」
いつものように優しかったのは最初に入ってきた時だけだった。
狭い粘膜を無理に押し広げる硬く滾ったものは、深々と押し入っては引き出され、戻ってくる度に質量が増していくようだった。速過ぎるペースで息もできないほどに強く突き上げられて、焼け付くような痛みが全身に広がる。
「いっ……や、ん……淳史さ、ん……待って、お願い」
必死に言葉を紡ぐ間にも、淳史はとんでもない重量感で腰を打ち付けてくる。せめて浅い所で、と思うのに、優生の腰を掴む手がそれさえも許してくれなかった。
「いた、い……いや……お願い」
生理的な涙が止まらず涙声になる。
「酷く抱かれたかったんじゃないのか?」
「いや……こんなのはいや」
「我が儘だな」
動くのは止めてくれたが、熱く固い凶器のような塊りはまだ優生の中に深く納まったままだった。
「ごめん、なさい……痛くしないで」
耳元を噛むように低い声が囁く。
「じゃ、どうして欲しいんだ?」
「後ろからは、いや……そんなに深く入れないで。そんなに強くしないで」
「本当に我が儘だな、俺の勝手にしていいんじゃなかったのか?」
口論でさえ、淳史には敵わないらしかった。
「お願い……やさしく、して」
涙声で訴えると、ようやく淳史が体を退いた。そっと優生の体を仰向けに返して、涙の跡を拭うように目尻を唇で辿る。そのまま顎のラインをなぞって喉へとキスが続く。
「あ、ぁん……」
胸を弄る指に吐息が洩れる。痛いほどに張り詰めた小さな先端を口に含まれて舌で弄られると、だんだん体が昂ぶってゆく。
優生の中を確かめるように指が探ってくる。沁みるような痛みと背筋を駆け上がる別な感覚に仰け反った。
「は……んっ」
小さく息をついて、指の侵入を助ける。また欲しいと思えるくらい、やさしく擦ってほしかった。
そっと膝を立てて腰を浮かせる。触れて欲しい所へ当たるように微妙に位置を変えながら、腰を揺らした。
「ああっ……あ、あん……」
節の高い長い指を瞼に思い描くと、その力強くて繊細な指のくれる刺激を一層強く感じる。それだけでいってしまいそうになるほども。
「優生」
「……いや」
抜き取られてしまいそうな予感に追い縋る。
「指じゃ俺はいけないだろうが」
笑いを含んだ意地悪な声に、優生はもう一度“お願い”した。
「やさしくして?」
答える代わりのように、淳史はそっとキスをくれた。もう、怒っていないのだと思ってホッとした。
膝を大きく割られて、ゆっくりと優生の中へ淳史が入って来る。今度は全てが納まってからも慎重に動いてくれていた。
「は……ぁん……んん」
「大丈夫か?」
やさしい声に頷いて、淳史の首へとしがみつく。
痛みはまだ引いていなかったが、気遣うように緩やかなリズムで擦られる粘膜が淳史の行為に馴染んでゆく。
「は……ん……ああ」
時折、中をかき回しながら、少しずつ優生の深い所へと沈んでゆく淳史のものを無意識に締め付けた。
「淳史さん……」
痛みを上回る感覚に溺れそうで、淳史に縋ろうと腕を伸ばす。届く前に、深々と貫かれて泣き声を上げた。
「やっ……もう、ぁあんっ」
強く腰を打ち付けられても、もう感じるのは過剰な快楽ばかりで、淳史に操られるままに体を揺らした。
「は、ん……ぁん……」
我慢できないほど張り詰めて濡れた優生の前を、不意に強い力が掴んだ。
「勝手にいくなよ?」
「えっ……な、に?」
突然、淳史の手に握られて堰き止められた奔流が出口を求めて暴走しそうになる。
「や……いや、離して」
「じゃ、自分で握ってろ」
低められた声に戸惑った。今まで一度としてそんなことを言われたことはなかったのに。
淳史に言われた通りに自分の掌で包むと、その上から手を重ねられて、根元を強く握るように直された。
「俺をいかせてから、な」
「ひあっ、や……あ、んっ……」
頷く間もなく深く貫かれて手を離しそうになる。
「勝手にいったら縛るからな?」
見透かしたように囁かれて、慌てて指に力を籠めた。
「っふ……ああ、ぁん……っあ」
激しく突き上げられる度に体が二つに引き裂かれてしまいそうな衝撃が走った。痛みと快楽が交錯して、シーツに押し付けた頬へと涙が伝ってゆく。
「いや……あ、淳史さ、ん……おねが、い」
「やさしいだけじゃ物足りないんだろう?」
「ごめ、ん、なさい……も、ゆるして」
前言を撤回するように首を振った。たぶん、今なら何を求められても了承するだろう。
「もう少し我慢しろ」
「ひ……ぁあっ……」
体の奥に飛沫を打ち付けられるのを感じて、自ら縛めていた指から力が抜けた。ヤバいと思った時にはもう優生の手のひらへ吐精した後だった。
叱られると思ったが、何も言わずに淳史は名残を惜しむように何度か突き上げてからゆっくりと優生の中から身を引いた。そのまま、骨太な腕を優生の頭の下に回して抱きよせると、乱れた髪に唇を寄せた。
「大丈夫か?」
小さく頷く優生はまだ息も整えられないまま、そっと涙の跡を拭った。ぴったりとくっついた体から伝わる鼓動に、また心拍数が上がりそうになる。

満たされる理由が、少しだけわかったような気がした。
相性が合うと感じたのは体の都合だけではないらしい。足りない部分を補おうとしても、他の誰も代わりにならないことを知った。
優生を腕に閉じ込めた淳史の声が、低く響く。
「もう他の男に指一本触れさせるなよ?」
「うん」
「学校へ行くのもやめるな?」
「うん」
何を言われても頷くことしかできなかった。気遣いなどいらないと言ったせいでわざと酷く扱われた体がだるくて、寝返りを打つのも骨が折れそうだ。
「そのままでいいのか?」
「起きる」
ベッドから片足をずらして床へと投げ出す。もう片方の足も下ろして上半身を起こそうと思ったが、腕にも満足に力が入らなかった。
「大丈夫か?」
淳史の腕に支えられるようにベッドへ座ったが、立ち上がれる自信はなかった。かといって、トイレに付き添ってもらうのは嫌だった。
「……平気」
「筋金入りだな」
呆れたように呟かれても、踏み出す足に集中していたせいで答えることはできなかった。
個室のドアを閉めて座り込むとホッと息を吐いた。
「ん……」
そっと指で開いて、体の奥へと注がれた愛情の証明をかき出す。指を伝う生暖かな感触に、自分の欲しかったものがただの性欲でしかなかったかもしれないと思った。
後の面倒がないようにゴムを使って、傷付けないように優しく抱いてもらった方がどれだけ楽かわかっていたのに。
優生は自分の望みがないものねだりではなく、ただの我儘だったと認めるしかなかった。
よろめきそうになりながら、なんとか寝室へ戻る。
ベッドの縁に座った淳史に促されるまま膝へと腰掛けた。片手で肩を抱かれてキスが始まる。
「んっ……」
そのままベッドへと倒されていく体が怯えた。
「淳史さん、俺、もうダメ」
そうでなくても、俊明と一戦交えた後だったというのに。
「サカった方がいいんじゃなかったのか?」
「ごめんなさい」
素直に敗北を認めて頭を下げた。
「足りないってことはないんだろうな?」
念を押す言葉に大きく頷いた。
「足り過ぎだから」
弱音を吐く優生を可笑しそうに見下ろす。もう、反論する言葉は一言だって出てこない。
「愛していると認める気になったか?」
「うん」
欲しかったのは本当はフィジカルなものではなかったのだと認めないわけにはいかなかった。けれども、ささやかな反抗として、優生もきっと愛していると言うのはもう少し先にしようと思った。



- Love And Chain.(5) - Fin

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