- Love And Chain.(4) -



「何から話せばいいのかな」
逡巡する俊明に焦れることもなく、優生は黙って待つ。
突然の俊明の訪問にも、優生の家出騒ぎで心配をかけたこととピアノの件で特に疑問に思うことはなかった。
淳史に連絡をするべきかどうかは迷ったが、出掛けるわけでないのだから約束を違えるわけでもない。今日も忙しく、休憩はおろか帰宅も遅くなりそうだという淳史を煩わせるまでもないことのように思えた。

まだ俊明とつき合っていた時に、前妻の妊娠が発覚して俊明の子供かもしれないと告げられた日もこんな雰囲気だった。
言い出す言葉をためらい、嫌な沈黙が続く。俊明は優柔不断ではないと思うが、相手を思いやり過ぎるのかもしれない。どんな言葉で包もうとも事実が変わるわけではないのに、少しでも傷付けずにすむ言葉を探して、逆に追い込んでしまうような気がする。
尤も、恋愛関係の終わった相手から何を言われようとも優生がダメージを受けることなどないはずだった。少し息苦しく感じるのは、俊明との別れにきちんと向き合わないまま淳史との関係を始めてしまったせいだということにはまだ気付いていない。

湯気の上がらなくなったコーヒーに視線をやる。淹れ直すために席を立てば、この緊迫した空気から逃れられるだろうかと考えた。
「ゆい」
優生が逃げ出したいと思っていることに気付いたのか、俊明は身を乗り出してきた。
「僕には母親の違う義弟がいる」
つき合っている時でさえ、殆ど俊明の身内の話など聞いたことがなかったから、突然の告白には驚かされた。淳史から聞いた話の中にも、義弟がいることには触れられていなかった。
「僕の母は、当時祖父の病院で勤務医をしていた父に一目惚れして、恋人と別れさせて結婚したんだよ。相手の女性も祖父の病院に勤務するナースで、おとなしく身を引いたそうだけど、父の方が諦めきれなかったらしくてね。しばらくは関係を続けていたようだけど……ある日突然失踪してしまったんだよ。ずいぶん捜したようだけど、元々身寄りもない彼女を見つけられないまま15年余りが経って……もう忘れた頃になって突然戻ってきたんだよ。僕より3ヶ月ほど後に生まれた義弟をつれて」
苦しげな顔を見せる俊明に同情するのは難しい。どちらかといえば、優生はその義弟の方に感情移入してしまいそうだった。
「病気で先が長くないことを悟って、子供を託すために現れたんだよ。かといって認知をさせる気はなかったそうだけどね。鑑定なんてするまでもなく、父の遺伝子を受け継いでいるのは一目瞭然だったよ。両親の良い所だけを選んで生まれたような綺麗で聡明な義弟でね。父には後見になること以外には望んでいなかったけど、僕とは年齢が同じだったこともあってわりと親しくしていたんだ」
今頃になって、俊明がそんな話をする理由がわからなかった。
「その人と何かあったの?」
「そうじゃないよ、ちょっと話が逸れてしまったかな。ともかく父はその女性がずっと忘れられないらしくてね、母とは書類上でしか夫婦とはいえないような状態なんだよ、ずっと」
「相手の人はもう亡くなってるんでしょう?」
「そうだよ。いっそ、現れないでいてくれたら、忘れたままだったかもしれないと思ったこともあるよ」
「その人が戻ってくるまでは上手くいってたの?」
「まあ、それなりにはね。でも、父はその人と再会してからは関連の病院に入院させて、ずっと詰めていたよ。亡くなっても長い間家には帰らなくてね、それほど好きだったんなら最初から母と結婚しなければ良かったのにと思ったよ」
「でも、お母さんは他に好きな人がいるのを承知で結婚したんでしょう?」
「確かに母が強引だったんだろうけど、父にも打算があったんだと思うよ。自分で開業するには元手もリスクもハンパじゃないからね。野心があるなら母はかなり魅力的に見えたはずだよ」
会ったことはないが、おそらく俊明の母親なら美人だろうと想像できた。美人で、後ろ盾もある女性に是非にと望まれたら、愛情以外何も持たない恋人を捨てても婿養子に入る価値があると思ったのかもしれない。
「お父さん、後悔してたのかな」
「再会したからそう思ったのかもしれないけどね。傍にいれば、そんな若くに死なせずにすんだかもしれないし」
「思い切るのに時間がかかるのは仕方ないよね」
愛してもらうことばかり考えているような優生には想像もつかないほど。
「だからかな、そのうち父に女性の影が見えるようになってね。それまでにもあったのかもしれないけど、その頃から隠すとかいうような気遣いをしなくなってしまったんだろうと思うよ。まあ、外科医は特にもてるからね」
俊明の憂鬱そうな顔は、てっきり父親に対する憤りや母親を気遣うものだと思っていた。
「特定の人と続いてたの?」
「最初はそうじゃなかったようだけど、少なくとも5年以上続いてる相手がいるよ」
「お母さん、大丈夫なの?」
或いは、そのくらいの覚悟をして結婚していたのかもしれないが。
「今更なんじゃないかな。今は、母より僕の方を気遣ってくれないかな?」
俊明の、いつになく弱気な口調にドキリとする。
「ゆい」
声に潜む切なげな響きに一瞬怯んだ。
「淳史はあんなに彩華に執着していたのに、どうして僕が離婚しても放っておいたのかな」
その話になった時に聞きそびれてしまい、明確な答えは導き出せなかった。ただ、俊明の想像とそう離れてはいないだろう。
「淳史から何も聞いてない?」
「……聞きそびれてたかも」
「淳史は知ってて黙ってたのかな」
何を、と問うのを躊躇ったのは嫌な予感がしたからだ。それを優生も知っていると言うのはもっと残酷な気がした。
「最近の出生前診断は5ヶ月までも待つ必要はないそうだよ」
その意味もわからず曖昧に頷く。
「産むしかない時期になるのを待っていたようだよ。尤も僕は彩華の相手を調べようとも思わなかったから、検査に何の意味もないことも知らなかったんだけど」
淳史に何も聞いていなければよかったと後悔してももう遅過ぎた。優生はあまり隠し事をするのには向いていない。
少し離れて隣に座っていたはずの俊明が、優生の前に回り込むように体をずらした。
「ゆい」
頬を掠めるように伸びてきた腕が、優生の後ろの壁に手をついた。ごく近い距離で見つめられる。
「君も知ってたのかな」
「……推論でしかない、という程度の話だけど」
きっと見抜かれていると思い、誤魔化すことは諦めた。
「淳史はいつも僕の好きになる人に興味を持つみたいなんだ」
苦しげに落とす視線が感情を抑えようとしているのが見てとれる。淳史が言うほど、俊明は鈍くないのかもしれない。
「一度くらい、仕返ししてもいいだろう?」
思わず頷きそうになってしまうくらい、せつなげな響きに引き摺られそうになる。見つめ合う目を先に伏せたのは優生の方だった。
唇に近付く気配にハッとした。
「だめ」
腕を突っ張って止める優生を、俊明はムリに引きよせようとはしなかった。俊明の言い分を否定したわけではなかったが、拒絶に取られたに違いない。
「他の人とキスしちゃダメって言われてるんだ」
言い訳のように口にした言葉に、俊明は小さく吹き出した。
「キスだけ? 他のことはしてもいいの?」
「え……と、腕枕もダメ」
「じゃ、その間は?」
「え……」
キスと腕枕の間といえば、やはり行為のことを指しているのだろうか。
迷う優生を急かすように、俊明の指が首筋を撫で上げた。耳の後ろから髪を梳く指に体がびくりとした。
「唇じゃなければいいのかな?」
首筋を掠める吐息に怖気づいた。その指が、唇が優生にどんな風に触れるか知っている体が過敏に反応する。
「ゆい」
耳元で囁かれる声が否応なしに思い出させる。一方的に受け入れさせられることしか知らなかった優生に快楽を教えてくれた俊明の、見た目より全然タフでくどいほどの愛情表現を。
否定しなければと思うのに、高揚した体は優生の思うようにはならなかった。脇腹からTシャツの中へ入ってきた掌が背中を伝い上がって衿を抜く。満たされていない体は、目の前にある快楽に容易く落ちそうだった。
指の腹が緩く撫でる胸元がもどかしく張り詰めていく。小さな突起を弄ぶ指が、じれったいほどやさしく爪先を立てた。
「……俊明さん」
請うように名前を呼んでしまうのは、もっと強い刺激が欲しいからで。頼りなく伸ばした手を取られて、俊明の首の後ろへと促される。胸元へと抱きよせてしまったのは無意識だった。
「ん……あ、んっ」
唇に含まれて舌で転がされると甘い痺れが全身に走る。薄い胸を反らせて俊明の髪に指を埋めた。柔らかく吸われて尖ってゆく先端に緩く歯を立てられる。執拗なくらいにそこばかりを弄られて体が小刻みに跳ねた。
「ゆい?」
そっと俊明の胸を押すようにして、二人の間に手を入れた。器用な指先で俊明のカッターシャツのボタンを外してゆく。できれば裸で抱き合いたかった。
露になる胸が触れ合うと、我慢できずに俊明のベルトにも手を伸ばす。もう、快楽のジャマになることを考えるのは止めて、行為に没頭することにした。
体の位置を入れ替えて、俊明をソファへと座らせる。優生はその前に膝をついて、俊明の股間へと顔を伏せた。そのままでは優生の中へ導くのはまだ無理な俊明の分身へとキスをする。舌を出して、濡れ始めた先端を舐めると、自分のものまで濡れてきそうな錯覚を覚えた。舌を絡ませて丹念に舐め上げてゆく。口の中で質量を増してゆくそれに貫かれることを思うと眩暈がした。早く欲しくて、夢中で唇と舌を動かした。
「……ゆい、離して」
少し掠れた声が、優生の顔を上げさせる。
「あんまり可愛い顔をすると、我慢できなくなるよ?」
両手で頬を包まれて、鼻先へとキスされる。俊明の前で跪いていた優生の腰が引き寄せられて、大事そうに膝へと抱き上げられた。髪をかき上げるようにして、耳の後ろから喉元へとキスをくれる。優生のして欲しいことを知っているかのように、俊明は先回りして叶えてくれた。
「もてあましてたのかな」
腰を支えていた掌に、背中から続く丸いラインを撫でられて、びくんと腰が跳ねた。窪みを辿る長い指が深く沈み込んでゆく。
「ひ、ぁっ……んっ」
満足させられていなかった体はあっけないほど簡単に侵入を許し、もっと欲しいと言わんばかりに奥へと誘い始める。
「淳史は意外と淡白だろう?」
驚いて目を上げた優生に、珍しく不謹慎な笑いを洩らした。
「もしかしたら、ゆいには物足りないのかな?」
「ん、ふ……あぁんっ」
優生の体を知り尽くしたかのような指に逆らう術もなく昂ぶってゆく。ねだるように腰を押し付けて、早く入れて欲しいと目で訴えた。
「ゆいは意外と貪欲だしね」
意地悪な言葉を紡ぐ唇を塞いでしまいたいのに、キスを封じられてしまうとそれも叶わなかった。
殆ど免疫のなかった優生を淫らに育てた張本人は、涼しい顔をしてゆっくりと優生の中へと入ってきた。
「あ……ぁん……」
思わず俊明の首へ縋りついた。焦らすように弱い刺激しかくれない俊明に、ついねだってしまいそうになる。つき合っている時から、俊明は優生の方から求めさせるようなところがあった。不慣れだった優生を気遣い確かめるやりとりが、慣れてからも残っていたのかもしれない。
「ゆい?」
合意を求めるような問いかけに、思わず頷いた。
「……もっと」
淳史に言われた言葉が脳裏を掠めたが、優生はすぐ間近にある誘惑に逆らうことができなかった。
「じゃ、キスしてもいいかな?」
「だめ……意地悪、しないで」
泣き出しそうな優生に、俊明はやさしく笑って目元へ口付けた。
そっと、優生の頭と腰を包むように抱いて、ソファへと上体を倒す。一旦深く優生の中へ押し入ると、早いストロークで追い上げていく。
「は、あんっ……あっ、あん」
腰を浮かせて俊明を深く迎え入れる度に、体中に痺れるような快楽が走る。優生の体を抱き慣れた俊明は、一途に優生を追い詰めて欲望を吐き出した。それに刺激されるように優生の緊張も解けてゆく。生だったと気付いたのは、まだ体の中で息衝く熱い塊が最後の一滴まで注ごうとするように蠢いていたからだった。つき合っている時でさえ、俊明はただの一度もコンドームを使わなかったことはなかったのだったが。
「ごめん、一度くらい君を直接感じたかった」
「……ちょっと、びっくりした」
戸惑う優生の髪がやさしく撫でられて、触れ合いそうな近くに吐息を感じた。思わず唇の前に手を上げる。
「キスしていい?」
何度目かの問いに首を横に振ると、俊明は残念そうに唇の端に口付けた。まるで、別れてしまったことを忘れてしまいそうになる一瞬だった。
欲しかったものを与えられたはずなのに、満足していない自分の貪欲さに呆れる。気持ちの良さと裏腹に、何かが足りないと思うの何故なのだろう。
優生の髪を梳いていた手が、頭を抱くように回されそうになるのを慌てて外した。
「ダメ」
「ゆいは頑固だね」
可笑しそうに笑って、俊明が体を起こす。あまりにあっさりとした仕草に肩透かしを食らったようで、責めるように見上げてしまった。
「淳史と上手くいってないの?」
「そんなこと、ないけど……あんまり、してくれないんだ」
「もったいないな、僕なら放っておかないのに」
それが真実だと知っている。少なくとも、彩華が現れるまでの俊明はそうだった。過剰なほどに優生を愛してくれた。今こうして足りないと思ってしまう元凶を作ってくれたと恨んでしまうほどに。
「仕事が忙しかったって聞いたけど?」
「うん……俺とタイミングが違うみたいで」
足りなかったら言えと言われていても、また拒否されてしまいそうで言い出すのは怖かった。相手の方から求められたいと思うのは優生の我儘が過ぎるのだろうか。
「ちゃんと話し合った方がいいよ?ゆいは大事なことも何も言ってくれないからね?」
「ごめんなさい……」
なぜか、その言葉は素直に出た。
「僕の手元にいなくても、幸せでいてくれればいいよ。困ったことがあったら何でも相談に乗るからね?」
何でも、と言われてすぐに頭を過ることがあった。
「あの、ね、聞いていいかな?」
迷ったが、他にこんな話をできる相手がいなかった。俊明は真摯な顔で優生を見つめてくる。そんな風にされると言いにくくなってしまうのだったが。
「この間、淳史さんに俺が早いのは被ってるからだって言われたんだけど……」
驚いたように目を丸くした俊明が小さく笑いを洩らした。こんなことを聞く優生も悪いのかもしれないが、ちょっと傷付いた。
「確かに、被ってると生育が悪いとか過敏過ぎてもたないとか言うけどね」
笑いを堪えながら真面目な顔を作ろうとされると、余計にいたたまれなくなる。やはり、人に聞くようなことではなかったのかもしれない。
「ゆい程度なら特に問題ないと思うけど……治したいの?」
「わかんないけど、その方がいいんだよね?」
「まあ、感染症にかかりやすいとか、人によってはコンプレックスを感じるとかあるようだけど」
今まであまり気にしたことのない自分が変わっているのかもしれない。友達ともそんな話をしたことはなく、比べようとも思わなかった。たぶん、淳史に指摘されなければ、気にならないままだっただろうと思う。
「や、ん」
いきなり俊明の手が触れてきた。
「被ったままだと圧迫されて、ここの発達が妨げられるとか、ここが未発達だと相手を満足させられないとか」
説明するために露出させる手にも過敏に反応してしまう。
「そういう風に刺激に敏感になり過ぎると言って気にする人もいるようだけど」
意地悪をするつもりだったわけではないらしく、そっと指が解かれた。
「僕は単なる個人差に過ぎないと思うよ」
「直さなくていいの?」
「そうだね、僕はいいと思うけど」
でも、淳史の評価はそうではなさそうなのだったが。
答えられない優生に、俊明が真剣な顔つきになる。
「思い詰めて手術なんてしたらダメだよ?傷が残るだけで何もいいことないからね」
「うん」
そこまで深く考えてはいなかったので逆に驚いた。
「自分で治すんなら、ここに輪ゴムを巻くとか、コンドームの先を切って被せるとか、ムキ癖をつけるといいって言うけど……試してみたい?」
「もしかして、俊明さん、おもしろがってない?」
「なくもないけど、優生がそこまで悩んでるんなら協力しないでもないよ?」
「悩んでるってほどじゃ……ちょっとは気にしてるけど」
「それならいいけど、絶対に手術はしちゃダメだからね?」
「わかった」
しつこいほどに念を押す言葉に頷く。
「じゃ、名残惜しいけど、そろそろ服を着てくれるかな?さすがにこの状況で淳史にバッタリ、なんてシャレにならないからね」
「たぶん、そんな心配はいらないと思うけど」
忙しい時期に休んだぶん、遅くなるのはもちろん休憩に帰るなど以ての外だと言っていた。
それでも、二人とも身支度をしておくことにした。さすがに、シャワーを勧めたりはできなかったが。
「ゆい」
また、触れそうな距離に俊明の顔が近付いた。なんとなく、口元を庇うように手を上げてしまう。
「なに?」
「僕らも秘密を共有しようか」
一瞬、継続的なことを求められたのかと思ったが、俊明の表情はそんな色っぽいものではなかった。
「子供が生まれたらすぐに母に預けようと思ってるんだ」
「え……」
「母とは血の繋がりはないけれど、父の子だから親子関係を築くのはおかしなことじゃないからね。まだ僕と母だけしか知らないことだから、誰にも内緒だよ?」
「……でも、お母さんだって、他所の女の人が産んだ子供なんて嫌なんじゃないの?」
その子も、優生のような思いをするのかもしれないと思うと俊明の味方をする気にはなれなかった。
「僕が父の子供を育てる方が不憫だと、母が言ったんだ。それに、彩華の手元に父の子供がいることの方が許せないようだよ。父は、僕が跡を継がなかったから、跡取りがいると思ったのかもしれないけど」
確かに、どちらで育てるにせよ、本当の親は片親でしかないのだった。
彩華から子供を取り上げることで少しでも気が晴れるのなら、それを望む気持ちもわからないでもない。ただ、そんな理由で育つ場所を決められる子供が可哀そうだ。
「他の人が産んだ子供でも可愛がってくれるのかな……」
「自分が産んだ子供にでもひどいことをする親がいるくらいだからね。でも、母は大丈夫だと思うよ。僕は愛されて育てられたと思うし、もしムリだと思ったら相談してくれるだろうしね」
確かに、血の繋がりだけで無条件に愛せるとは限らないと思う。
「……もう少し早く気付いていれば、君を手放さずにすんだのにな」
惜しむような口ぶりを嬉しいと思う自分を身勝手だと思うが、やっと蟠りが消えていくような気がした。優生のことを惜しむくらい愛してくれていたのだと、今なら信じられる。
「もし淳史と上手くいってなくて迷ってるんなら協力するよ?」
その協力の内容が必ずしも浮気とは限らないのに、優生は首を振って否定した。
「上手くいってないわけじゃないよ」
「それなら僕が付け入るスキはなかったんじゃないのかな?」
今更のように、浮気してしまった事実を認識して青褪めた。言葉を何と変えても、これが浮気だったことは間違いない。
「悪いのは君じゃないよ。もしも淳史にバレたら、僕に脅されたって言えばいい」
やさしい声が優生の耳元をくすぐる。その優しい人がもう自分のものではないことを少し淋しく思いながら、やっと俊明とのことが過去になったのを感じた。



- Love And Chain.(4) - Fin

【 Love And Chain.(3) 】     Novel     【 Love And Chain.(5) 】  


仮性の話で(個人的に)盛り上がっていたので、下品な話になってしまったかも……。
決して、笑いを取ろうと思ったわけではないのですが。
実際には、仮性真性合わせて9割ほどもいるんだそうですね。
真性なら手術が必要だったりしますが、
仮性の場合は殆ど問題ないのに、なぜだか男性方は物凄く気にされるようです。
男の人は大変だなあ、とつくづく思ったりしました。

追記.
俊明に“(包茎切除)手術はしてはいけない”と言わせましたが、
HIV感染予防には有効らしいです(他の性感染症についてはその限りではないようですが)。