- After A Storm -



「明日から弁当を入れてくれないか」
出掛けに淳史が言った思いがけない言葉に、優生はすぐには答えられなかった。
たとえ淳史の言葉が依頼形でも優生に断れるわけはなかったが、安請け合いできる内容でもない。
「俺、弁当なんて作ったことないんだけど……」
「無理か?」
「ううん、そういうわけじゃなくて……どこで食べるの? きれいにできなくても大丈夫かな?」
「別に下手でもいいから愛妻弁当っぽく作ってくれ」
「……は?」
一瞬、自分の耳を疑った。確かに、つい先日、結婚してくれと言われたばかりだが。
「何回も言わすなよ。愛妻弁当、知らないのか?」
「知らないってこともないけど……」
一般的なイメージだけならば。
「じゃ、大丈夫だな?」
「努力はするけど、上手くできなかったらごめんね?」
「信頼してるよ」
それが過度な圧力になっていると、淳史は自覚していないのだろうか。

淳史を送り出したあと、とりあえず“愛妻弁当”という単語で検索をかけてみた。
優生のイメージでは、白いごはんに赤やピンクのハートを描いたようなものかと思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。ウェブで見た愛妻弁当はどれも、ごく普通のメニューを普通に詰めたものばかりだった。要するに、愛する旦那様に妻が作る弁当を愛妻弁当と呼ぶらしい。
いろいろ調べて、とりあえずどんなものを作ったらいいのかが掴めた頃、勇士からメールが入った。
バイトがないから来ないかという勇士の誘いに、弁当を持って行くから少し遅めになると答えて、急いで用意に取りかかる。
まだ弁当用の買出しをしていなかったが、予行演習ということでありあわせで作ってみた。頭で思い描いたものを一通り用意し終えて、いざ詰めようという段になって初めて、弁当箱がないことに気が付いた。
早急に、箸箱やらランチバッグやら一式を買わなくてはならないようだ。
これが明日の朝でなくてよかったと思いつつ、今は間に合わせのタッパーに詰めて家を出ることにした。




「おまえ、ちゃんと料理できるんだな……そういや、ハウスキーパーとか言ってたもんな」
広げた弁当に感心する勇士に、少しフライング気味の報告をする。
「え、と、ハウスキーパーじゃなかったみたいなんだ。結婚してくれって言われた」
「え」
絶句する勇士の頭の中はきっと、男同士なのに結婚なんてどういうことだろうという疑問でいっぱいになっているのだろう。
「別に籍を入れるわけじゃないよ。普通に男女のカップルでも籍入れないで事実婚の人もいるだろ?」
「ああ、そうか、そうだよな。急だったから驚いたよ。良かったな、ゆい」
「うん。ありがとう」
素直に答えられたのは、形式だけとはいえ指輪を買ってもらい、それらしい言葉があったおかげかもしれない。
忙しい仕事の合間を縫って店舗に出向き、ゆっくり選ぶ暇はなくて即行で決めてしまったが、きちんと結婚指輪として注文してくれた。デザインも優生の希望を聞いてくれて、ゴールドとプラチナのコンビのごくごくシンプルなものになった。サイズを直しているから手元に来るのは1週間くらい先だが、その存在が少なからず優生を安心させている。
「そういや、教習所行ってるか?」
「ううん、まだ」
「まだっておまえ、大学始まるまでに取れなくなるぞ?」
「そうなんだけど……つい行きそびれて」
以前は淳史にも免許を取るように言われていたが、多忙になってからはそんな話は出なくなった。それ以前に、ゆっくり話す時間もなかなか取れないような状況で、そんなどうでもいいようなことを優生からは言い出しかねていた。
「おまえの彼氏、早く免許を取って飲みに行った帰りに迎えに来てくれとか言わないのか?」
「そういえば、前にそんなようなことを言ってたかも」
「それなら早く取りに行けよ」
「うん」
いっそ、淳史には事後承諾でもいいのかもしれない。優生の貯金で免許費用くらいは何とかなる。
弁当をつつきながら、たわいない会話を小一時間ほどした頃、優生の携帯が震え出した。
淳史からのメールで、今日も遅くなるという連絡だった。
「帰らなくて大丈夫なのか?」
「うん、遅くなるんだって。なんか、最近すごく忙しいみたいなんだ」
「どこの企業でも、3月って1年で一番忙しい時期なんじゃないのか?」
「そういえば、そうだよな」
勇士の一言でずいぶん気が軽くなる。
さりげなく、優生の欲しい言葉をくれる優しさも、優生が勇士に惹かれていた理由のひとつだった。
「おまえの彼氏って、何してる人なんだ?」
「保険会社の営業さんだって。個人じゃなくて企業相手のやつ」
「なんか高給取りっぽい職業だな」
「みたいだよ。初対面で新品のグランドピアノが欲しいって話したら買ってくれたし」
「マジかよ……」
絶句する勇士に、キッチン用品を買った時のことや食費を預かる時のことなど、淳史の金銭感覚がやや人と外れていることを話した。
食事を済ませてから、ランチ用品の買い出しに勇士と一緒に出掛けた。淳史と好みが似ているかどうかはわからないが、優生一人で悩むよりは早く決められたかもしれない。
少し早めに別れて、食材の買出しをして帰ることにした。今夜の食事はいらないことになったが、明日以降の弁当を作るためにストックが必要だった。






「あ」
通りの向こう側の、一際大きな人影に気付いて優生は足を止めた。
ずいぶん急いでいるらしく、足早にビルに入っていく。
淳史の勤務先がそこだったことに気付くまでに少しかかってしまった。今まであまり意識したことはなかったが、淳史のマンションから1駅で、しかも駅の側だ。だからちょくちょく帰ってこられたのかもしれない。
たぶん、勤務中の淳史を見るのは初めてだと思う。距離があるのでよくはわからないが、纏う空気がピリピリしているような気がした。仕事を抜けて家に帰ってくる時はオフの顔をしているから、たまに苛々しているように見えることはあっても、こんな風に厳しい雰囲気ではない。
つらつらと物思いに耽りながら、見るともなく淳史が入って行ったガラスのドアに視線を向けてぼんやりしてしまっていた。

「具合でも悪いの?」
突然かけられた声に、ハッとして振り向く。
やや軽薄そうな風貌の男が、心配げに優生を見ていた。スーツを着ているから勤務中なのだろうが、細いストライプのクレリックシャツに淡いピンクの小花刺繍のタイは、サラリーマンにしては少し派手な気がする。
「いえ、ぼんやりしてただけで……何でもないですから」
無難にやり過ごそうと丁寧に頭を下げた優生の腕に、無遠慮に伸びてきた手にびくりとした。
「少し休んでいけば?」
「え、え?」
「そこの会社のロビーで良ければ、だけど」
指で示されたのは淳史の勤務先と同じビルで、ということは同じ会社の人なのかもしれなかった。一瞬、怪しげな勧誘でもされるのではないかと警戒してしまった自分が恥ずかしくなる。
「いいえ、本当に大丈夫ですから」
淳史の勤務先なら、絶対に近付くわけにはいかなかった。一緒に住んでいる優生のことを、淳史が職場でどういう風に申告しているのか、或いは独居のままになっているのか知らないが、実際のところが知れれば後々面倒なことにならないとも限らない。
「でも、顔色が悪いよ?」
思いがけずしつこい男に戸惑った。なまじ同じ会社の人かもしれないと思ってしまったせいで、無下に断ってしまうのも失礼な気がする。
まだ掴まれたままの腕を、どうやって離せばいいのかもわからず途方に暮れる優生の頭上から、突然低い声が降ってきた。
「何やってるんだ」
苛ついたような声の正体は確認するまでもない。
「工藤……」
きまり悪げに淳史を呼ぶその男が、ようやく優生の腕を解放した。やはり、優生の予想は外れていなかったようだ。
「この子が具合悪そうに見えたから休んでいくように言っただけだよ」
「勤務中にナンパなんかするな」
「そんなんじゃないって。この子、横断歩道の信号を3回も待ってたんだ。顔色も悪いし、会社のロビーで休んだらって言っただけだよ」
「信号が3回変わる間、ずっと見てたのか?」
思わぬ所を淳史に指摘されたらしく、男は返す言葉を無くして黙り込んでしまった。庇ってあげたくても、淳史と知り合いだと言っていいのかさえわからない状態では、口の利き方にも悩んでしまう。
「優生、具合が悪いのか?」
優生の戸惑いに気付いたのか、淳史は明確な呼びかけをしながら傍に近付いてきた。それでも、念のため、馴れ馴れしい態度にならないように気を遣う。
「そんなことないんだけど、ちょっとぼんやりしてしまってて……」
「え、工藤の知り合い?」
「そうだ。気安く声をかけるなよ」
「……しょうがないな。じゃ、ゆいちゃん? お大事にね」
確認するように優生の名前を呼び、短く声をかけてから、男は会社の方へと去っていった。特に不審がったようすはなかったようだと思いながら、その背を見送る。
「優生」
慌てて声の方に視線を上げると、淳史はまだ不機嫌そうな顔をしていた。
「変なことをされてないだろうな?」
こんな往来の、しかも自分の勤務先のすぐ側で一体どんな変なことができると言うつもりだろうか。
「うん。親切だったんだと思うよ。ただ、会社にって言われたから、ついていくわけにいかないと思って」
「会社じゃなかったらついていったのか?」
「そうじゃないけど……」
気を回したことさえ藪蛇だったようで、今の淳史には何を言っても怒らせることにしかならないような気がする。
「気安く触らせるな。断る時にはもっときっぱりしろ。そうでなくても……」
淳史にしては珍しく、言いかけた言葉を途中で切った。叱られるのを待つ優生に続きを聞かせるつもりはないらしく、短く息を吐いて言葉を変える。
「それより、何か用だったのか?」
「ううん。たまたま近くに来てただけなんだ。さっき淳史さんが会社に入ってくのが見えて……ここが勤務先なんだなあって思って何となく眺めてたら、具合悪いのと間違われたみたいで」
「そうか。でも本当に具合が悪そうだぞ?」
「そんなことないんだけどな。ごめんなさい、お仕事の邪魔して。もう帰るね」
駅の方に向きを変えようとした優生の肩が、淳史の方に引きよせられる。
「タクシーを拾うか?」
「ううん、大丈夫だから電車で帰るね」
「そうか?じゃ、帰るか」
「え?」
――気を付けて帰れよ、じゃなくて?
淳史の手の平に背中を促され、駅の方へと並んで歩き出す。
「俺も帰る所だったからな」
「こんな時間に?」
おそらく、まだ4時過ぎくらいのはずだった。こんな時間に帰ってきたことは一度もない。
「半時間ほど前にメールしたぞ。気が付かなかったのか?」
確かめようとポケットに手をやった時、持って出ていなかったことに気が付いた。
「あ、家に携帯置いてきたみたいだ」
昼に帰ってくる時にはいつも早めに連絡をくれるから、昼過ぎまで待って今日は帰って来ないと思って外に出たのだった。
「ということは、飯食わせろっていうのは無理なんだな?」
「まさか、お昼がまだってことないよね?」
朝8時に食事をしたとしても、8時間以上経っていることになる。
「女王様の嫌がらせに遭ってるからな。あり得ないくらいに忙しいんだ」
「もしかして、また会社に戻るの?」
「会社じゃないんだがな」
会社でなければ、何処に行くと言うのか。
おそらく、女王様というのは俊明との会話に何度か出てきた取引先の令嬢のことなのだろう。俊明の話では、淳史にひどくご執心だという話だった。
優生がやっと居場所を確保したと思った矢先だったのに、また脅かされてしまうのだろうか。
「帰ってる時間あるの?」
「おまえまでそんなことを言うのか?」
「そうじゃなくて……またすぐ行くんでしょ?帰ってる時間が勿体無くないの?」
「どうせ今日も夜中までつき合わされるんだぞ? 帰って休憩を取るくらい許されるんじゃないのか?」
「じゃ、急いでごはん作らないといけないね。下準備はしてあるけど、30分以上待ってもらうことになると思うんだけど……大丈夫?」
「大丈夫も何も、待たなけりゃしょうがないだろう」
「ごめんなさい」
どうやら先に見た印象通り、淳史の機嫌はかなり斜め向きのようだ。帰る間にうっかり逆撫でしてしまわないよう、余計なことは言わないことにした。


移動時間も合わせると、結局、一時間ほど経ってからの食事となった。
食事を終えると、淳史はいつものように洗面所に向かった。しばらく経って、水音で淳史が風呂に行ったのがわかった。
やはり、“女王様”のご機嫌伺いに行くのだろう。
ある意味、それは浮気と同等のことではないのか。接待だとしても、若い独身女性と二人きりで会うのなら、しかも相手に好意と下心があることが明らかなのに、純粋に仕事と割り切ることは出来そうになかった。
優生が小さな頃から無意識に持ってはいけないと思っていた独占欲が、不意に薄い胸から溢れ出しそうになる。相手のものになるのと同時に相手が自分のものになるわけではないということくらいわかっているが、少しくらいの所有権を主張することも許されないのだろうか。
非難する言葉を探すうちに、おそらく優生にはそんなものがないと思われているからこそ、淳史に選ばれたのだろうということを思い出す。無害でなければ淳史の傍にはいられないのだった。だから、ずっと淳史の気に障らないよう気遣ってきたのに、つまらない一言で失くしたくはなかった。

風呂から上がった淳史は寝室に向かい、新しいドレスシャツを羽織って出てきた。スーツも仕事に行く時より明るめものを選んできている。
「すぐに出掛けるの?」
「そうだな、もう少ししたらな。遅くなるだろうから先に寝てろよ?」
「うん」
胸に落ちた不安が、体中に広がっていく。
淳史はその女性のことを、口で言うほどは疎ましく思っていないような気がした。
以前、俊明は淳史の好みのタイプだろうと言っていたから、会うこと自体は満更でもないのかもしれない。ただ、結婚となれば、相手が取引先の令嬢だということもあり、慎重にならざるをえないのだろう。もし拗れてしまえば、淳史個人の問題だけではすまされなくなってしまう。
淳史の好みというとすぐに彩華のことが頭に浮かぶ。彩華とは一度会ったでけで殆ど知らないようなものだが、その美貌と圧倒されるような存在感は微塵も忘れられずにいる。もし淳史の会っている女性が同じようなタイプだとしたら、優生に勝ち目はない。
見たこともない人に劣等感を抱くのは馬鹿げているかもしれないが、スタートラインから不利な優生は、どうしても心穏やかに居ることはできそうになかった。




淳史に寄り添う細身の女性には見覚えがあった。
その正体を確かめようと、靄がかかったようにはっきりとしない視界に目を凝らす。淳史の肩越しに優生を見る美しい顔は彩華のように見えた。
腕を取る細い指に促されて、淳史がその女性と去って行く。伸ばそうとした手は届きそうにない。間際に優生を振り向いた顔は勇士だった。

弾けるように顔を上げると、見慣れたリビングが写る。ソファの肘掛に置いていた手が痺れていた。時計を見ると1時近かったが、まだ淳史の気配はなさそうだった。
大きく息を吐く。
夢に意味を見出そうとすること自体が無意味なのに、優生は自分の気持ちを疑った。もしかしたら、まだ勇士が好きなのだろうか。それとも、独占できない淳史の代わりに、勇士に逃避しようとしているのだろうか。
携帯を持って寝室に移る。眠れそうにはなかったが、明日の朝も弁当を用意するために、ベッドに入ることにした。
淳史の匂いに包まれていれば少しは落ち着くのではないかと思い、毛布にくるまった。顔が半分隠れるほども潜り込んだのは、優生が寒がりなせいだけではない。
何度か寝返りを打ってはため息を吐く。
あまり遅くなったら、タフな淳史でも体に差し支えるのではないかというのは建て前で、もっと我儘な心配が胸を占めていた。
静かな部屋に響いた玄関の音に、淳史が帰ったことに気付く。
起きた方がいいのか迷ったが、淳史は真っ直ぐにバスルームに向かったようだった。洩れ聞こえてくる水音は短めで、出掛ける前にもシャワーを使っていた淳史は早々に切り上げたようで、それほどの時間を置かずに寝室に向かってきた。
いつもは低めた声で優生を呼ぶのに、今日は顔を覗かれた風もない。隣に腰を下ろすと、別な毛布を引き寄せ、上掛けを重ねて横になった。よほど疲れているのか、優生の寝顔にキスをすることもなく、すぐに寝息が聞こえ始めた。
そっと、肘で支えて頭を起こし、淳史の顔を覗いてみる。少し翳りの見える横顔はもう寝入ってしまったようだった。唇に触れてみたいと思うのに、どうしてもできない。

結局、殆ど眠れないうちに空が白んできていた。少し早かったが、携帯を取って体を起こす。今日も、弁当の用意をしなくてはいけなかった。




「あ、おはよ」
気配に振り向く優生に、大股に近付いた体が、覆い被さるようにギュッと抱きしめてくる。身を捩ると正面から抱き直されて、痛いほど力を籠められた。
一頻り抱擁されたあと、優生の顔が上向けられる。無言のままで淳史の顔が近付く。ほぼ一日ぶりのキスにおとなしくしていられたのは最初だけだった。
頭の後ろから大きな手に引き寄せられて逃げ道を塞がれたような状態で、さんざん舌を貪られる。気持ちが良いというよりは、食われそうな荒っぽいキスだ。
「んっ」
何とか反らしかけた顔を追いかけて、淳史は執拗に優生の舌を絡めようとする。キスだけでテンションを上げてしまう優生の膝は今にも崩れてしまいそうだ。
背中からシャツの中へ滑ってくる手に肌が震えた。まさか、こんな時間に仕掛けてくるはずがないと思うのに、優生にぴったりとくっついた体温を感じただけで熱が上がってしまいそうになる。こんなに密着していたら、悟られてしまうに違いない。
「時間、大丈夫……?」
優生の問いかけに、淳史が短く息を吐く。
「たまには寝過ごすことくらいあるだろう?」
「まだ7時過ぎだよ?」
淳史はもう一度、今度は大きくため息を吐いた。抱きしめていた腕を解いて、名残惜しげに優生を見る。
「これだけハードに働いてるのに、一日くらい寝過ごしてもいいんじゃないのか?」
淳史がそんな風に愚痴っぽいことを言うのは珍しいことだった。返す言葉を見つけられないうちに、淳史は黙って洗面所へと向かってしまう。
どうやら優生は返事を間違えてしまったらしかった。淳史は寝過ごしたことにしてくれるつもりだったのだろう。自分ではそれほど鈍い方だとは思っていなかったが、こういう機微を聞き逃さないようにするのは難しい。
身支度を終えて戻ってきた淳史に弁当の包みを手渡す。軽く唇へとキスを落として出掛ける後姿をぼんやりと見送った。






閉じた携帯を、テーブルに置く。
今夜も遅くなるから先に休んでいるように告げる恋人もしくはご主人に、良い子のお返事をするのは本当は苦痛だった。このところずっと、小まめに連絡を入れてはくれているが、淳史と過ごす時間は極端に短くなってしまっている。
でも、早く帰ってきてほしいとか傍にいてほしいとかいう言葉はどうしても口に出せなかった。言ってしまえば、きっと淳史に疎ましく思われてしまう。それに、一言でも口にしたらその言葉に負けてしまいそうな気がした。

淳史の仕事は多忙を極めているらしく、仕事の合間に家に帰ってくるのは週に1日か2日で、それも着替えや入浴に帰っているようなものだった。帰宅するのは深夜になってからで、土日も殆ど休日出勤している。ウィークデーも夕食は外ですませてくることが多く、淳史の食事の用意をしないから、優生が食事を摂るのも減ってしまっていた。
これで弁当を入れていなかったら、優生は何のためにここにいるのかわからなくなってしまいそうだ。

こんな生活は初めてではない。前の恋人は、離婚した妻の妊娠が発覚すると元のさやに収まってしまった。
結末はわかっていたのに、はっきりと別れを告げられるまでは微かな期待を捨ててしまうことができずに、主のいない部屋で待ち続けるしかなかった。
だから、そろそろ覚悟をしなくてはいけないのかもしれない。淳史の言葉を疑うわけではないが、ずっと優生と居てくれるとはとても信じられなかった。いつか、誰かと比べられた時に選んでもらえるとはどうしても自惚れられない。
瞼を閉じると、ソファの肘掛へと凭せかけた頬が濡れた。
今度の恋の相手も優生を独りにする。それに耐え切れないことを知っているはずなのに。
それとも、優生はひっそりと暮らしているつもりでも、淳史の気に障っているのだろうか。ずいぶん自分を抑えている気でいたが、まだ足りないのかもしれない。もしかしたら、声をかけてほしいとか、“ただいま”や“おやすみ”のキスをしてもらいたいとか思っていることも疎ましく感じているのだろうか。
考えれば考えるほど深みに嵌ってしまうとわかっているのに。
淳史は優生が邪魔になった時、潮時だとちゃんと伝えてくれるだろうか。優生が別れを察して自分から去らなくてはならないのだろうか。もし淳史が留守がちになったのがそのサインなら、優生はずいぶん鈍いと思われているかもしれない。

被害妄想だと思おうとしている。お揃いのリングが届いたばかりなのに、まだもう少し時間があるはずだと思い込もうとしている。
そんな風に思うこと自体が、もう微妙なラインを越えそうだからなのだと気付かないようにしながら。




「風邪ひくぞ」
低い声に、浅い眠りの淵から引き上げられる。
愛しい人へ伸ばしかけた手を慌てて引っ込めた。夢の中でさえ、手を伸ばしてもその人に触れられないことを知っている。その向こうには新しい人が佇んでいるのに。
もう別れへのカウントダウンは始まっていたらしい。
ソファの肘掛けに凭れた優生の斜めの視界が、奇妙な既視感に揺れた。恋人の向こう側にいる美しい人に、自分の存在を消してしまいたいほどの気後れを感じて。
誰かに似た面影は、触れられないはずの手を取って、優生の傍へと膝をついた。
「また具合が悪いのか?」
額へと触れる手に、目線を上げる。
「淳史さん……」
やっと、その名前が唇に追いついた。危うく呼んでしまいそうになった名前が誰のものだったのか自分でもわからないまま、現実に戻ってきた。
「ただいま、遅くなって悪かったな」
淳史の唇が軽く触れて、ただいまのキスに安堵を覚えた。引き止めるように腕を回して抱きしめる。その抱擁に幸せを感じたのはほんの一瞬だった。
「この子があなたの花嫁? ずいぶん幼そうだけど」
聞き覚えのない声に心臓が跳ね上がる。淳史の肩越しに目で追うと、彩華のように派手な顔立ちの美女が立っていた。
やはり、夢ではなかったのかと錯覚しそうになる。
その人の言葉を否定しようとした優生を遮って、淳史が振り向く。
「見ての通り、こういう世間知らずなのがタイプなんですよ。やっと口説き落として一緒になったばかりですから邪魔しないでいただけませんか」
聞いたことのないような淳史の物言いに、やっと気付いた。淳史を婿養子にしたいという女王様はこの人なのだろう。
「まさか本当に結婚していたとは思わなかったわ。しかもこんな地味なタイプを選ぶとなんてね? どおりで口説いても口説いても良い返事をくれなかったわけね。おじゃまさま」
踵を返す女性を追う淳史の背中がリビングを出てゆく。
「納得していただけたと思っていいんでしょうね」
聞こえてくる淳史の口調は強気だった。
「そうね……バツイチの花婿も、ムリヤリ離婚させて取り上げたなんて噂が立つのも困るものね。あなたも、一生出世はできないくらいの覚悟はできてるんでしょうしね?」
「そんな俗物じゃないでしょう?」
「買いかぶりよ」
ドアの閉まる音に、ようやく詰めた息を吐き出すことができた。外に出たらしい二人の声はもう聞こえない。
ソファに座りなおして頭を整理する。淳史の慇懃無礼な態度が、逆に気心の知れた掛け合いのように感じられた。そんなことができるくらい、二人は親しいということなのだろう。
ほどなく部屋へ戻ってきた淳史に、うまく声が掛けられなかった。それを察してか、隣に腰を下ろした淳史の方から話しかけてくる。
「起こして悪かったな。どうしても嫁が見たいと言うからな、おまえに会えば納得するだろうと思って連れてきた」
何事もなかったかのような平然とした口調だったことが、余計に優生の不安を煽る。
「……嫁って」
「最初は婚約者だって言ってたんだが、話の成り行きで婚約くらいじゃ押し切られそうな気がしたからな」
それで、突然あんなことを言い出したのかもしれない。急いで指輪を用意したのも、今日に間に合わせるためだったのだろうか。
「……俺、女に見える?」
「見えないこともないと思うが、ちょっとムリがあるだろうな」
「しばらく出歩かない方がいい?」
「おまえが気にすることはないからな? いっそ実はゲイなんだって言おうかとも思ったんだが、あの女には過去をいろいろ知られてるからな。おまえに会って一応は納得したようだし、もしまだ諦めないようなら宗旨替えしたとでも言うさ。だから男だってバレたって構わない。巻き込んで悪かったな。もし、バレた時に、事実に近い方が後々面倒がないと思ったからな」
「仕事に差し支えちゃったんじゃないの?」
「そこまで馬鹿な女じゃないぜ。単なる嫌がらせだから心配するな」
「うん……」
頷きながらも、不安は胸を覆ったまま晴れそうになかった。
「もし、俺がいない時に連絡があっても出なくていいからな。出たとしても、俺がさっき言ったことを否定するようなことは絶対言うなよ?」
「うん」
頷いたものの、優生は嘘を吐いたり人を騙したりするのは得意ではない。もしもの場合に上手く接することができず、淳史に迷惑をかけることになってしまわないか心配だった。
「眠かったら先に休んでろよ? 俺も風呂に入ったら寝るからな、明日も早いんだ」
「じゃ、先に寝室に行ってるね」
立ち上がろうとした優生を引き戻して、淳史が顔を近付ける。触れるだけのおやすみのキスだった。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
まだ眠るつもりではなかったが、短く答えて先に部屋を出た。
ベッドに横になって、少し頭を整理する。
本当にあの女性は優生の存在に納得したのだろうか。形式だけとはいえ薬指に嵌めたマリッジリングと、ただいまのキスは少しは夫婦っぽく写っただろうか。
優生の外見にもかなり不満げだったが、あの場はいくらかの嫌味を言っただけで引き上げていった。淳史は気にした風もなかったが、ずいぶん思い入れていたようなのに、本当に何の報復も考えず放っておいてくれるのだろうか。

ドアの開く音に視線を向ける。いつもの精悍さを欠いた淳史が、足早にベッドへ近付いてきた。
少し乱雑に隣へと滑り込んでくる淳史が、腕を優生の肩の下へ通して抱きよせる。
淳史の方へ体ごと向き直って、首にしがみつくようにギュッと抱きついた。淳史に寄り添うことで不安が消えるような気がして、つい抱きしめる腕に力がこもる。やさしい腕が緩く背中を撫でながら、いつになく疲れたような声が安堵を崩す。
「悪い、今日はムリだ」
一瞬、意味を理解しかねて答えに詰まった。そういえば、しばらく抱き合っていない。でも、誘ったつもりではなかった。
「ご、ごめんなさい」
慌てて腕を緩めて離れようとした体が引き止められる。軽く、唇に触れるだけの“おやすみ”のキス。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
小さく答えて、そっと腕を解く。今度は引き止められなかった。
淳史に背中を向けるように横になったのは、泣き顔に気付かれたくなかったからだ。
声を殺して静かに泣くのには慣れている。両親と引き離された幼い時も、過去の恋でもそうせざるをえなかった。
やさしい人は、いつもとっくに誰かのもので、優生に独占させてくれることはない。




ほんの短い携帯のアラーム音が、優生の意識を現実に戻した。
寝ても覚めても、悲しみに違いはなかったが。
瞳を開こうとした時、睫毛が縫いとめられるほどの涙の名残りに気付いた。眠れないと思っていたのに、子供のように泣き寝入りしてしまったらしい。
「悪い、起こしたな」
淳史は部屋を出ようとするところで、時計に目をやると7時前だった。いつも通り、淳史は顔を洗って歯磨きをして、5分もすれば仕事に出てしまうのだろう。
「寝過ごしちゃった……お弁当、どうしよう」
「構わないから気にしないで寝てろ。明日からもムリしなくていいからな」
「ごめんなさい」
淳史の背中を追ってドアを見つめる。なぜか、今日は優生は自分のアラームに気付かなかった。いつも音を消して震わせているが、聞き逃したことは一度もなかったのだったが。

寝室に戻ってきた淳史が、カッターシャツを羽織りながら優生の方へ近づいてきた。
「戻れないと思うが、昼もちゃんと食えよ? 夜はどうなるかわからないから用意しなくていいからな」
「うん」
「行ってくる」
軽く触れる唇さえ、そっけなく感じてしまうのはまだ昨夜のショックから立ち直っていないからだ。
「いってらっしゃい」
小さく呟く頃には、もう淳史の背中はドアの傍まで行っている。
浅い眠りで気だるい体を無理に引き上げた。どうせ、もう一度眠るのは困難で、眠っても嫌な夢を見てしまうこともわかっている。
起きて、必要のない食材の入った冷蔵庫の中を片付けて、部屋を磨けば半日くらいすぐに過ぎてゆく。疲れれば、何も考えないで睡眠に入れるかもしれない。夢も見ないほども。

頭で考えながら、ゆっくりと着替えをすませて洗面所へ向かった。
鏡を見るのは嫌いだ。
痩せて、色を失くした頬が貧相に見える。いつも悲しげな瞳も、笑わない唇も、何もかもが誰の気も引くことはできない気がした。
どうすれば、どれほど忙しく疲れていても、放っておけないと思ってもらえるような存在になれるのだろう。
冷たい水で顔を洗って、鏡を見ないようにタオルで顔を覆った。雫を拭って洗濯機に放り込む。
ずっと家に閉じこもっているから余計におかしくなるのかもしれない。勇士の都合を聞いて、会えるようなら出かけようと思った。


午後遅く、勇士の都合に合わせて、使う予定のなさそうな食材を持って行った。勇士に食事を作って、頼まれもしないのに部屋を磨いて、たわいのない話をしているうちにずいぶん気が紛れた。
夫婦喧嘩をしたら勇士の所に逃げてきても構わないと言われた時には本当に嬉しかった。勇士にとっては、新婚だと思い込んでいる優生をからかうだけの言葉に過ぎなかったとしても。今の優生にとって、勇士は最後の拠り所のようなものだった。
もしかしたら、あの夢は深層心理を暴いて見せたのかもしれない。絶対に優生のものにはならない勇士に、手に入ったかに見えてそうではなさそうな淳史が重なったのだろう。
勇士とは、友人としてならきっと一生でも近くにいられる。でも、一度でも恋愛関係になった淳史とは、別れればそれきりになってしまうのだろう。たとえ望まれたとしても、淳史が誰かのものになる所など見たくもないが。






何日ぶりかの、早く帰るという淳史からのメールにはむしろ慌てた。
淳史が家で食事を摂るのは久しぶりで、急いで買い物に出かけなくてはならなかった。最近の優生は家では殆ど食事を摂っていなかったから、弁当用の食材しかなかったからだ。
とりあえず、日持ちのする根菜類や使い回しのできそうな食材を選んだ。もし明日からも早くても対応ができるように、遅くてもなるべく無駄にならないように考えながらの買い物になった。それでも、どうしても使いきれなかったら勇士の所に持って行こうかという思いもちらりと過った。

だから、淳史が疲れて帰って、風呂に入って少し横になってくると言ったまま眠ってしまったことにも腹は立たなかった。
悪いことが起こる前に、覚悟するクセはついている。諦めることも知っている。その代償に、心が離れていってしまうことには気付かないフリで。

食べられることのなかった夕食を片付けて、風呂に入っても、淳史のいる寝室に行く気にはならなかった。
もしかしたら居ることさえ認識されていないのかもしれない自分が、本来、他人を必要としない淳史の傍にいる意味などないことを改めて思い知らされた気がした。
以前、優生のすべては淳史のものだと言ったが、それはむしろ優生が安心したいための言葉だったのかもしれない。

ソファに凭れて、ハーフケットを膝にかけた。興味のないテレビをつけて、ボリュームを絞る。見るともなく視線を画面にやって、時間が過ぎるのを待つ。途方もなく長い時間でも、待つことには慣れている。
今までの恋愛でもそうだったように、きっと自分にはそれだけの価値しかないのだろう。置いてもらえるだけでも感謝しなければならないとわかっているのに。人のものに興味を持つらしい淳史の好奇心につき合った代償にしては高くついたかもしれない。どちらにとっても。


目が覚めた時、淳史の腕の中にいることには驚かなかった。まだ夢の中にいるのだと思い込んでいた。
「起きたか?」
やさしい声に目線をあげて、その視界いっぱいに淳史を捕らえた時、キスされているのだと気が付いた。
慈しむようなキスに、やっと記憶が追いついた。
「俺、いつの間にベッドに来たのかな……」
「よく寝てたからな、運んできても起きなかったよ」
「ごめんなさい、寝るつもりじゃなかったから」
「いや、俺もちょっと横になるつもりが日付が変わってたしな。悪かったな、せっかく用意してくれてたのに」
「ううん」
「一応全部食ったんだが、よかったか?」
「え、うん」
意味が理解できないまま頷いた。
「量が多かったしな、おまえも食ってないんじゃないかと思ったんだが」
「あ、ううん、大丈夫」
「今日は昼にも帰るから、また何か作ってくれ」
「うん」
たったそれだけのことで喜んでいる自分が可笑しかった。ついさっきまで、あれほど投げ遣りな気持ちになっていたというのに。
短いキスと腕枕が、久しぶりに優生を幸せな気分で眠りに就かせた。






「言うまでもないと思うが、俺はもう他の誰とも結婚しないぞ?」
「え?」
ブランチのスパゲティとサラダをカウンターに置いて、水を注ごうとした腕を不意に取られて、淳史の隣へ座らせられる。
昨夜早く帰ってきたのに続いて、珍しく休日出勤も呼び出しもない日曜だった。
「あの女のことを気にしてるんなら、無用な心配だぞ? 俺は口説いた覚えもなければ、身売りする気もないからな」
「あ、この間ここに来た人のこと?」
「おまえの前で言ったことは全部本当のことだ。俺は他の誰とも浮気する気もないからな」
「そんなこと言っちゃって大丈夫なの? 社長令嬢なんでしょ?」
一度だけ見た強気な顔が目に浮かぶ。優生には、とてもあのまま済ませてくれるようには思えなかったのだったが。
淳史に優生の傍にいてほしいと思う反面、覚悟だけはしておかなくてはいけないとも思っていた。別れを察知した時に、みっともなく縋ったりしたくない。憐れむような目で見られたくない。それはプライドでも何でもなく、この先一人で生きていくためにどうしても回避しなくてはならない事態だった。
もう、優生は身の程を弁えないほどの高望みをするつもりはなかった。ただ、傍にいてくれて、ほんの少しでも気に留めてくれていればそれでいい。思えば、最初から愛されているかもしれないと考えたことさえなかったのだから。
「俊明からおまえを奪った時に覚悟を決めてるさ。釘もさされてるしな」
その言葉の裏を読めば、義務や責任というような理由で傍にいるのだという風に聞こえる。それに負けないように、建て前の言葉を口にした。
「俺のせいで仕事やつきあいに支障が出ないようにして?」
「あの女のせいでもないのか?」
淳史の言葉の意味がどうしても理解できない。首を傾げた優生をきつく抱きしめる腕は苦しいほど。
「まだ俊明が忘れられないのか」
小さな声だったが、優生の胸を抉るのには充分だった。
忘れられるわけがない。きっと、一生引きずっていくのだと思う。自分を戒めるために。永遠に続くものなどないと覚悟しておくために。
穏やかな生活が、あんなにもあっさり奪われてしまうなんて想像もしなかった。今はこんな風に言ってくれていても、いつ気が変わって淳史を失くすかもしれない。

「我ながら、気が長いと感心するよ」
「淳史さん?」
「おまえが、彩華に俊明を取られると思って不安がっていた頃から、もしかしたら取れるんじゃないかと思ってたんだ。一度は俺のものになったと思ったのに、おまえはまだ俊明に囚われたままなんだな」
淳史がそんな風に考えているとは思っていなかった。それに、囚われているとしても、それは俊明本人に、というわけではないのだったが。
「俊明さんを好きなわけじゃないよ。俺は全部、淳史さんのだよ?」
「わかってるよ、俺が俊明の所へ帰れないようにしたんだ。でも、返す気はないからな? おまえだって、そのくらいの覚悟はできてるだろう?」
「うん、返さないでね」
淳史の背中に、ギュッとしがみつく。
このままずっと、何事もなく穏やかな日が続けばいいのに。淳史がやさしいのは罪悪感のせいで、優生は逆らえない相手から逃れるための恋人役でしかないとしても。
「もしかして熱があるんじゃないのか?」
抱きしめられた体をそっと離して、淳史が額に手のひらを当てる。
言われてみれば確かに、しばらく寝不足と食欲不振が続いていて、体がだるかった。元々そんなに丈夫ではない優生が熱を出すのは珍しいことではなかったが、そうと知らない淳史には一大事に思えたようだ。
「やっぱり熱っぽいな、風邪でもひいたか?」
「そうかな、たいしたことはないんだけど」
「食ったら休んでろよ?」
「うん、ありがとう」
素直に頷いたが、久しぶりに淳史と二人で過ごす休日を寝て終わらせてしまうなんてもったいないことはしたくなかった。
何も話さなくても、ただ傍にいるだけでもいい。もう少し、優生は淳史のものなのだと感じていたかった。

食事の後片付けが終わると、淳史の肩に凭れてソファでうたた寝をした。
こうやってくっついているだけで、優生がどれほど安心するのか淳史は知らないのだろう。相手の体温を感じながら、規則正しい鼓動を聞きながら、胎児のように微睡む幸せを、他人を必要としない淳史は理解できないのかもしれない。


夜になっても微熱の下がらない優生のために、淳史は買い出しに行って簡単に食事を済ませ、ずいぶん早い時間に寝室に移った。
昼間からほぼずっと、淳史は肩や胸に優生を抱き寄せたまま離そうとはしなかった。ベッドに入ってもそれは同じで、腕を枕に優生を抱きしめた。最近のそっけなさに慣れていたせいで、その優しさに却って不安を煽られる。
掌でそっと頬を包まれて、唇がやさしく触れてくる。啄むだけの軽いキスをくり返す淳史を引き止めるように腕を回した。
優生の思いに気付いてか、少しキスが深くなる。
「ん……」
短く息を詰めた優生に、パジャマの上から淳史の指がいたずらっぽく滑ってゆく。生地を僅かに押し上げる小さな突起が摘まれて、たまらず淳史の首へしがみついた。
「早く元気になれよ」
笑う淳史と違って、優生の方には余裕など全然ないというのに。戯れるだけの淳史に、そのくらいの元気はあると言えたら楽になれるのだろうが、どうしても言い出すことはできなかった。
優生の体を気遣う淳史に、自分からねだることはできないまま、甘い時間が過ぎていく。優生が見た目ほどストイックではないことを、淳史はまだ知らないらしかった。






だるい体を起こして、インターフォンを取る。まさか、相手が淳史を口説いていたという女性だとは思いもしなかった。
「この間、淳史と一緒に来たでしょう、渡辺梨花です。あなたに話したいことがあるんだけど、少し構わないかしら?」
否と言わせない語気の強さに、日を改めてほしいと言えなくなってしまう。最初からチャイムの音など無視してしまえば良かったのに、うっかり応対してしまったために断れなくなってしまっていた。

開けたドアの向こう側に、あの日と同じ華やかな女性が佇んでいた。その後ろに、いかにも格闘系という感じの筋肉質な体をダークスーツに包んだ男が控えていることを知り、ドアの内側へと通すのを躊躇してしまう。
「ボディガードの黒田よ、男性の部屋に女1人で訪ねてくるというわけにはいかないでしょう?」
もっともらしい言い訳で、その厳つい男を引き連れて玄関の中まで入り込んでくる。
知る由もないのかもしれないが、そんな心配をされるまでもなく、梨花が優生のそういう対象になり得るはずがなかった。それに、梨花は優生より背も高く、内面だけでなく外見も弱々しげなタイプではなさそうに見えた。
この女性が好みなのだとしたら、淳史はずいぶん趣味が悪いと思う。優生は、梨花と同じ空間にいるだけで居心地の悪さに逃げ出したくなるほどなのに。

本意ではなかったが、玄関先でと言うわけにもいかず、リビングへ通してソファをすすめた。
「お茶を入れてきます」
気を落ち着ける意味でも、ちょっと時間が欲しかったのだったが、梨花にそれを引き止められる。
「お構いなく、今日はいろいろ確かめたいことがあって来たのよ。あなた、男の子なんですってね?」
一瞬の迷いがなかったわけではないが、ここまで断定的に尋ねられると、否定する方がしらじらしい。
「そうですけど」
「淳史にそんな趣味があるなんて聞いたことがなかったわ。そもそも、淳史って派手な大人の女が好みでしょう? 本当に、あなたとそういう関係なの?」
淳史、と呼び捨てる言い方が妙に慣れているように聞こえて、二人の歴史を物語っているようで息苦しくなる。
肯定するかどうか迷ったが、あの日、淳史が梨花に言ったことを否定するなと言われていたことを思い出して頷いた。
「たぶん、こういうのは俺が初めてだと思いますけど……」
「そうでしょう? 私から逃げるためにあなたと偽装結婚したんじゃないかと思ってるのよ」
偽装、という言葉に心臓が止まるかと思った。まさか、最初からこの女から逃げるためだけに優生をカムフラージュに使ったのかと、ほんの一瞬、猜疑心が胸をよぎった。
少なくとも、それが全てではないと思い直した頃には、もう射程距離に入られていた。
「だから、ちょっと確認させてもらうわ」
梨花の目線が黒田を追った時、身に覚えのある嫌な空気が流れた。
反射的に立ち上がろうとした体があっけなくソファへと沈められる。
「やめてください」
震える声で梨花に訴えたが、冷ややかな視線で見据えられただけだった。
「本当は、淳史に頼まれたか雇われたかしただけなんじゃないの? あなたみたいな色気の欠片もないような男の子が、とてもじゃないけど淳史をその気にさせられるとは思えないのよ……黒田のような趣味があるのならともかく」
「いや」
押さえ込まれた腰の辺りからTシャツの中へ忍んでくる手の平に懸命に抗ったが、大人と子供ほどに体格の違う相手を跳ね除けることはできなかった。おそらく淳史と同じくらいなのだろうが、優生の扱い方はまるで違っている。その重量級のウェイトで押さえ込まれれば、逃れることは不可能に思えた。
優生の両手を纏めて片手で掴まれ、別な手が器用にTシャツを抜き、硬い膝が下肢の抵抗を封じる。晒された肌を滑る手の冷たさに震えが走る。
「あっ……」
思いがけなさに、ため息のような声が洩れた。
指の腹で撫でられた胸の突起が張り詰めてゆく。無骨そうな外見に反して、黒田は加減をよく心得ているらしい。
「んっ」
不意に黒田の唇に含まれた突起を甘噛みされて、腰まで痺れた。
慌てて首を捻り、腕に口元を押し付けなければならないくらい、黒田の指も唇も、優生の体を煽り立ててゆく。
ジーンズにかけられた手を掴もうと伸ばす指にも思うように力が入らない。
状況も弁えず火照ってゆく体を諌めることもできず、弱々しく首を振るたびに涙が散る。
「淳史はともかく、あなたは本物らしいわね」
優生は誰が相手でもこんな風になってしまうのだと言われて愕然とした。ずっと淳史が忙しくて優生を構ってくれていなかったとか、久しぶりの休日にも、体調を崩していた優生を気遣って何もしなかったとか、頭の中では言い訳が回っているのに。
「見た目ほど純ってわけでもなさそうですね」
楽しむような男の声に、体中から火を噴きそうな羞恥を覚えたが、体の方は言うことをきいてくれそうになかった。
「いや」
そんな言葉ひとつでは、膝の辺りで蟠っていたジーンズを全て抜かれるのを止めることもできない。
男の手が何かを掬って優生の足の間から後ろを探ってきた。
「ひあ」
悲鳴というより喘ぎだったかもしれない。
どうしようもなく感じ入って締め上げる所を、ゆっくりと指が出入りする。馴染ませるように回される指が増やされて、優生の弱い所を執拗に突き上げた。
「や、あっ、ん、んっ」
指の動きに合わせて跳ねる腰が、ねだっているようだとわかっているのに止められない。飢えた体は新たな刺激を欲しがって、もっと奥まで誘おうと蠢く。
きつく閉ざした眦から、止め処なく涙が溢れても、体は優生の思いを裏切り続けた。
「新婚だというわりには、あまり構ってもらってないようですね。それとも、ご主人だけじゃ足りないんですか?」
幾分トーンの変わった男の声に、すがるような思いで頭を振る。
「お願い、入れないで」
かろうじて告げた優生の言葉を塞ぐように、男の唇が近づいてきた。
「本当に?」
やさしいとさえ思える低い声が、優生の哀願を嘘だと言う。
「いやっ」
せめて唇だけは守ろうと閉ざしたが、後ろを突き上げられるとたまらず詰めた息を吐き出してしまう。
「は、ぁんっ……」
やさしい舌が口内をていねいに舐め擦り、優生の舌を捕らえた。短い音を立てて吸われると頭の芯まで痺れたように力が抜けてゆく。腕を突っ張るとか歯を立てるとかいったような抵抗は頭の片隅に追いやられてしまい、快楽に流されてしまいそうになる。
優生の体を貫くその力強い指により高みへと追い上げられ、どうにも体の快さに逆らうことができなくなってしまう。
何とか胸元をタップしようとする手の平に、まともに力が入らない。
「黒田、もういいわ、やめなさい」
見ていられないと言いたげな梨香の言葉に、男の体から先までのしつこさが嘘のように消えた。突然放り出された、名残惜しげに悶える体を隠す術もない。
「もう一度聞くわ。本当にあなたが淳史の相手なの?」
涙に濡れた目を上げないままで、小さく頷いた。
「ちょっと脅せば本当のことを言うと思っていたんだけれど」
これは未遂というのだろうか。
淳史に軽蔑されてしまうくらいなら、いっそ死んでしまおうと思ったとき、低められた声が耳を打った。
「俺に断りなくこいつに触るな」
見知らぬ男に体を弄られたこと以上に恐ろしい瞬間だったかもしれない。
抑えきれない怒りを孕んだ淳史の声が、優生の胸を引き裂くようで。
いつの間に帰ってきたのか、淳史がリビングに居た。瞬く間に優生の傍らに駆け寄って来て膝をつき、庇うように抱き寄せた。
「大丈夫か?」
なんと答えたらいいのかわからずに、ただ小さく頷いたきり、顔を上げられなくなる。
「男の子だとは聞いてなかったわね? 偽装だと思ったから確かめたかったのよ」
悪びれもせずそんなことを言う梨花に、優生を抱く淳史の腕に痛いほどの力が籠もる。
「そんなに見たいんなら俺がこいつを抱くところを見せてやる」
本気でその言葉を実行しそうな雰囲気に、梨花は初めて焦ったような素振りを見せた。
「見たいわけないでしょう? 最初から男の子だって言わないから騙されたんだと思ったのよ」
「女だと言った覚えもない」
「結婚したなんて言われたら、相手は女性だと思うでしょう?」
「そこまで言わなければならない義務もないだろう。大体、仕事とプライベートをごっちゃにするのがおかしいんだ」
いつの間にか淳史の口調がすっかりくだけてしまっていることに、やっと気が付いた。
「そうでもしなければ、あなたを取れないでしょう?」
「どうやったって他の誰とも結婚する気もつき合う気もないと言っているだろう」
「この子はあなたが思っているほど世間知らずじゃないわよ? 調べさせて貰ったけれど、他にも親しい相手がいるようだし、黒田のことも気に入ったみたいよ?」
淳史が瞑目して天を仰ぐ。握り締められた拳はかすかに震えているようだった。
ごく短い時間で冷静さを取り戻し、先の憤りを隠していつもの揺るぎない口調に戻る。
「このことはお互いの会社に報告していいんでしょうね?」
「それは……花嫁が男だなんて知れたら、あなただって困るんじゃないの?」
「その花嫁を手籠めにしようとしたことの方がよほど問題だと思いますが?」
静かな睨み合いのあと、ため息を吐いたのは梨花の方だった。
「……わかったわ、跡継ぎは別な人を探すって父に言うわ」
悔しげな梨香の言葉に、淳史は冷ややかに言い切った。
「今度優生に近付いたら、刑事告訴も辞さないと思っておいてください」
「あなたにも、ダメなの?」
「当然でしょう。あなたのボディガードを殴ってしまわないうちに早く引き上げていただけませんか」
丁寧な対応はもう無理だと言わんばかりの淳史の語気に、漸く招かれざる客人が引き上げていった。

ぼんやりと、淳史の腕に支えられたままでいた優生の背中が促される。
「体を流してこいよ。気持ち悪いんだろう?」
そう思っているのは淳史の方かもしれない。
諦めに似た絶望が、優生の涙を止めた。もう、何をしても遅いのに。それでも、淳史の希望通り、散らかった服を掴んで風呂場に向かう。
「洗ってやりたいが、急いで手を打たないといけないからな」
優生に付き添ってくる淳史は、携帯から電話をかけはじめた。
「工藤だけど、悪い、戻れなくなった。直接話したいから繋いでくれないか? 女王サマの件なら片付いたよ、最悪の結果だけどな。いや、契約には影響はないはずだ」
最悪の結果、という言葉が優生の胸に刺さる。
淳史を洗面所に残したまま浴室に入った。
体の火照りは引きそうになかったが、鎮めてもらえそうな気配ではなく、今は他の男に触れられた所を洗い流すことに専念するしかなかった。
頭から熱いシャワーを浴びながら、湯を両手ですくって口の中をすすぐ。体を順に洗いながら、これからの身の振り方をぼんやりと思った。
暫くなら勇士が泊めてくれるかもしれない。たぶん、きちんと決めるのはもう少し落ち着いてから考えた方がいいのだろう。
また理不尽に体を自由にさせてしまうような日が来るとは思ってもみなかった。もう淳史以外の誰にも触れられたくないと思っていたのに。でも、最初の時と違って、裏切ってしまったのは自分自身だ。

シャワーを止めると、まだ淳史が話している声が聞こえていたが、意を決してドアを開けた。
差し出されるバスタオルを受け取って、軽く拭いて寝室へ向かう。その肩を抱くように淳史がついてくる。まだ、電話の会話は続いたままだった。

ウォークインクローゼットへ行こうとする優生を、肩を抱いた手が引き止める。振り仰いだ先の淳史の瞳が優生の抗議を封じた。為す術もなく、そのまま電話が終わるのを待った。
「悪かった、俺のせいでおまえに嫌な思いをさせたな」
携帯を閉じた淳史の、予想外の言葉に首を振る。
決して淳史のせいではないと思う。優生がもう少し慎重になっていれば免れられたことだった。
「本当は出向いていって直接クレームを出してやりたいところなんだが、あまり強気に出られる立場でもないしな」
そのクレームがさっきのことなのかさえわからない。ただ、優生を気遣ってくれていることだけは伝わってきた。
ベッドまで送って来た淳史の腕を離させようと、小さく身を捩る。
「大丈夫だよ。お仕事、行ってきて」
「俺の方が大丈夫じゃないんだ」
その言葉が胸を引き裂くような錯覚を覚えた。きつく抱きしめられても、噴き出した罪悪感は止まりそうになかった。
優生には申し開きのしようもなかった。気持ちはともかく、体は淳史を裏切っていた。仮に、あれを未遂というとしても。
「ひどいことをされなかったか?」
小さく頷く以外、淳史の胸に顔を埋めたまま。
唇を探ってくる淳史を躱そうとしたが、たやすく捕らえられてしまう。見ず知らずの相手にさえ抗いきれなかったのに、淳史から逃げられるわけがなかった。
すぐにキスが深まり、優生の足元が怪しくなる。それに気付いてか、ゆっくりベッドへと倒された。
「あ、んっ」
バスタオルが解かれて、探られる肌が跳ね上がる。
さっき煽られたまま止めを刺されなかった体が、いとも容易く上りつめてゆく。
「いや」
不安に、首を振って拒んだが聞いてくれそうになかった。
「……相手が上着も脱いでなかったってことは未遂だよな?」
呟かれる声に、心臓が止まったかと思った。いっそ、本当に止まってしまえばと思う。
やはり、淳史もそういうことを気にするらしい。
そっと、淳史の胸元を押し返して首を横に振った。
どこまでを未遂というのかはわからない。それでも、指2本でも受け入れたのは事実だった。今はうやむやに濁せても、きっと隠し通すことなどできないだろう。止めを刺されるなら、今の方がいい。手に入れた後で失うより、失くしたと思った今なら受け止められる。
淳史に抱きすくめられた体が、痛いほどに軋む。
「悪かった……間に合わなかったんだな」
耳を打つ真摯な声がせつない。言葉にされると、決意が崩れそうになる。
「ごめんなさい」
自分が楽になりたくて謝った。瞳を伏せたまま、淳史の気遣いを拒むために。
「優生……」
珍しく、淳史が言い淀む。
優生は視線をはずしたままで続きを待った。
「抱いてもいいか?」
耳を疑うような淳史の言葉に、すぐには答えられなかった。
「少しだけ我慢してくれ」
淳史の言いたいことは今の優生には理解できそうにない。
焦れたように、耳元へ口付けられ、熱い息が項を撫でた。
「いやか?」
これ以上淳史に言葉を尽くさせるわけにはいかず、小さく首を振った。
「俺のでいてくれ」
囁かれる言葉にも、視線を上げて淳史と見つめ合うことはできなかった。
いつだって思っている。
愛されたいと願うのと同時に。
もう誰にも、自分を奪われたくない。
理不尽に踏みにじられるのも、気まぐれに愛されるのも。
だからきっと、このまま終わらせてしまえばいいのだろう。
幸せなまま、愛されていると錯覚したまま。
いつも、欲をかくから絶望することになってしまうのだとやっと気付いた。この瞬間に世界を閉じてしまえば、もう二度と悲しまずにすむ。




やさしすぎると不安になる。
もう、不安に思う必要さえないはずなのに、まだ夢を見たがっているのだろうか。
「どうした?」
訝しげに見つめられて、小さく首を振った。
「時間、大丈夫?」
いつまでも腕枕を解こうとしない保護者が、仕事に出やすくなるように尋ねてみる。
「今日は帰らないって言ってあるから心配するな」
「いいの?」
「ずっと忙しかったからな、少しくらい勝手をしてもいいだろう?」
覗き込んでくる瞳のやさしさに見透かされそうで、慌てて淳史の胸元に顔を伏せた。
抱きよせられる体をすべて預けて目を閉じる。
この体も、心も、優生のすべてが淳史のものなのだから。
だから、淳史が仕事に出たら、今度こそ誘惑に従ってしまおうと思っていた。
もう、誰にも奪われないうちに。
「愛している」
不意に囁かれた言葉に心が揺れる。
思わず笑ってしまった。
まだ、懲りていない自分に。また、夢でしかない夢に溺れてしまいそうな自分に。
「俺も」
きっと、最後の告白だと思ったら、言葉は意外なくらいに自然に唇からこぼれた。
抱きしめられる腕に身を預けて、幸せな一夜を過ごした。



- After A Storm - Fin

【 Just Can't Wait 】     Novel     【 Stay With Me 】  


2006.10.25.update

“ After a storm comes a calm ”という諺からタイトルをいただきました。
嵐の後にはなぎが来る、という意味です。
これからは平穏な日がやってくるといいなと思ってつけたんですが……当分ムリかも。


以下、毎度おなじみのネタバレです。
誰も心配してないと思いますけど、優生は自殺なんてしません。
それから、クドイようですけど勇士×優生にはなりません。
黒田×優生はアリかもしれませんけど……。