- Do Me More(3) -



淳史をこれ以上心配させないために、優生は家から一歩でも出る時には里桜を誘うようになった。
日々の買い物も、新刊やゲームをチェックするのも、ちょっとコンビニに行くのさえ、一人にならないよう気を付けている。
だから、やっと髪を切る許可が下りたときにも、里桜の下校時間に合わせて付き添って貰うことにしたのだった。

「ゆいさん、美人度が上がってるー」
伸び過ぎた前髪を切り、他は軽くすいた程度だったが、印象はかなり変わったようで、里桜は優生の顔を見るなり嬉しそうな声を上げた。
「顔は変わらないだろ、髪切っただけなんだし」
里桜の大げさな言い様が気恥ずかしくて、素っ気無く返してカウンターに向かう。
急いでいるような素振りで支払いを済ませ、余計な言葉をかけられないうちに背を向けた。すぐ後ろについて来ていた里桜が、待ちかねたように優生の腕を取る。
今日も里桜はシフォンのチュニックブラウスに細身のクロップドパンツという、到底男ものとは思えない格好で、そうでなくても可愛い顔立ちと艶のあるサラサラの長めの髪も相まって女子高生(もしくは女子中学生)にしか見えない。
一見、性別に悩まれることの多々ある優生でも、里桜と連れ立っていると、10センチ近い身長差もあって傍目にはカップルだと思われてしまいそうだった。
「役得ー」
里桜もそう思っているのか、これ見よがしに寄り添い、肘の辺りへと腕を絡めてくる。
「淳史さんや義之さんに見つかったら怒られるよ? ここ、淳史さんの会社の近くなのに」
「腕組んでるだけなのに? あっくんだって、俺に頼むんだからこのくらいのことは想像してるよ、きっと」
「そうかもしれないけど、誤解されかねないようなことをするのはダメ」
「……なんか、ゆいさんマジメになり過ぎちゃってつまんないなあ」
言葉ほど不満げではなかったが、里桜は名残惜しそうに優生の腕から手を解いた。
いつからか里桜は聞き分けが良くなり、少なくとも優生に我儘を言うようなことは無くなっている。だからこそ、つき合って貰っている立場としては少しは機嫌を取っておかなければという下心が働いた。
この辺りで、里桜を連れて行くべき場所は優生には一ヶ所しか思い付かない。
「代わりにケーキでも奢るよ? 近くに美味しいところがあるから」
「ほんと? お店で食べていいの?」
「いいよ。時間はまだ大丈夫なんだよな?」
「うん。義くん遅いって言ってたし」
「じゃ、ゆっくりして帰ろうか。淳史さんも遅くなるみたいだし」
そうして、優生はかなり久しぶりに冬湖の店を訪れることになった。






ほぼ14時間ぶりの抱擁は簡単には解かれそうになく、覆い被さるように優生を包む腕の中で、淳史の気がすむのをおとなしく待つ。
帰宅した淳史と、気配に気付いて出迎えに走る優生が落ち合う場所はいつもリビングのドアを出た辺りで、あと数歩、せめて部屋の中に入ってからにした方がいいのではと思いながら、引き伸ばすことはできない。
何度も優生の髪を梳く指は優しく、とりあえず今回は淳史の気に入らないということはなかったようでホッとする。
やがて、頬に移ってきた手に仰向かされ、唇が近付く。
軽く啄ばむようにくり返されるキスは優生が思っていたほど深まりそうにはなく、戯れるように触れるばかりで少し物足りない。ねだるように淳史の首へ腕を回し、すげない唇へ舌先を伸ばす。
優生がその先まで望んでいると知ってか知らずか、淳史は短く舌を擦り合わせただけでキスを終えようとする。
離れがたい唇は、今は優生を蕩かすためではなく、話をするために使いたいらしい。頬を包む手がそっと距離を取り、背を抱く手が部屋の中へ入るように促す。
「今日、里桜を冬湖さんのところに連れて行ったんだってな? “凄く可愛い子と一緒だった”っていうメールが来たんだが、どうも余計な心配をされたみたいで笑えた」
“笑えた”と言いながら淳史はあまり面白くなさそうな表情で、ただ優生を一人にしないために譲歩しているだけで、里桜を誘うことに諸手を上げて賛成しているわけではないようだと気付く。
「里桜は見た目女子だから誤解されるよね。それがわかってて態と腕組んだりするから、傍目にはカップルみたいに見えるのかも」
「この頃ずっと義之が忙しくしてるから、おまえで気を紛らわせているのかもしれないな。そういうことを考慮して隣合わせたんだから多少のことは仕方ないにしても、あまり甘やかし過ぎるなよ?」
「うん」
妬いてくれているのかもしれないと思うと、つい顔が緩んでくる。相手が里桜でも安心できないと思われているのだとすれば、いっそ嬉しかった。
「おまえも里桜を“餌付け”してたのか?」
「餌付けなんて……お礼というかお詫びというか、ちょっと出掛けるだけでも毎回つき合ってもらってるから、たまには里桜の好きなものでも奢ろうと思っただけで」
そういう意味での下心はあったが、幸せそうにスイーツに向かう里桜の顔を見ていると自然と和まされ、周囲が挙って甘やかす気持ちがわかるような気にさせられていた。
尤も、里桜の前に置かれたチョコレートのたっぷり沁み込んだケーキにココアなんて甘ったるい組み合わせを視界に入れなければ、の話だったが。
「おまえは? 何か食ったのか?」
「うん。ブルーベリーのバトンフロマージュ。すごくおいしかった」
身内同然の淳史に気を遣っているわけではなく、冬湖の店のお菓子は、甘いものが苦手な優生にも無理なく食べられるものが多い。チーズケーキやアイスを選ぶなら、頻繁に通っても大丈夫だと思う。
「おまえの口に合うんなら、いつでも買って帰るぞ?」
「それなら、ケーキじゃなくてアイスがいいな。ラムレーズンとかベリー系のカップのやつ」
こういう時には断るよりも何かねだった方がいいと、今では優生も学習済みだ。どういうわけか、大人の男というのは贈ったり奢ったりするのが好きな生きものらしかった。
「明日にでも頼んでおくからな」
「うん。ありがとう」
貰う方以上に、買う方が満足そうに見えるのも、もう不思議だとは思わなかった。






マンションまであと数メートルという辺りまで戻ってきたとき、エントランスの前に見覚えのある人影を認めて、優生は思わず足を止めた。
「ゆいさん?」
並んで歩いていた里桜もつられたように立ち止まり、何事かという風に優生の視線の先を追う。
テスト期間中で早く学校を終えた里桜と出掛けていたのはゲームソフトを買うためで、通信しなければ進んでいかないポータブルゲームの相手をしてもらうべく一緒にハマらせようと目論んでいたのに。
「……淳史さんのお母さんが来てる」
優生が顔を強張らせる理由を里桜は瞬時に悟ったようで、そっと肘の辺りに手を伸ばしてきた。
「ゆいさんに用があって来てるんだよね?」
「たぶん」
「じゃ、行こ? 俺、おばさんは得意だから大丈夫」
それが淳史の母親にも通じるかどうかはともかく、里桜がいてくれたことに心底感謝した。


「こんにちは」
初対面のはずの淳史の母親に怯むことなく、里桜は人懐こい笑みで真っ先に声をかける。
優生の第一印象では、やや神経質そうな、とっつきにくいタイプのように思えたのだったが、里桜は全く気にならないようだった。
「工藤さんのお隣の緒方です。工藤さんにもゆいさんにも、いつもお世話になってます」
ぺこりと頭を下げる里桜はどこから見ても初々しく可愛らしい“若妻”で、少々の至らなさがあっても許されてしまいそうな風情が漂っている。
「こちらこそ、親ししていただいているようで助かっています」
唐突な挨拶にも戸惑った様子はなく、社交辞令にしては好意的で、里桜は本当に“おばさん受け”が良いようだった。ただ会釈を交わすしかできずにいた、一応“嫁”のはずの優生に対する態度とは格段の差があるような気がする。
「工藤さん、今日も遅いみたいですよ? うちもそうなんですけど、とても不景気とは思えないくらい忙しいというか、仕事熱心というか」
「それなら仕方ないのかもしれないけれど……全然電話もくれないし、気になって押しかけて来てしまったんですよ」
「男の人って、電話を面倒くさがりますよね。それに、何も言わなくても親はわかってくれるっていう思い込みがあるから、つい先延ばしにしてしまってるのかも」
淀みなく応対する里桜は井戸端会議に慣れた主婦のようで、優生はただただ感心するばかりで口を挟む機を逸してしまう。


「優生さん、中には入れてくれないの?」
二人のやり取りをぼんやりと眺めていた優生は、不意に名前を呼ばれて焦った。
里桜に向けるのとは違う冷ややかさを含んでいるように感じるのは、優生の被害妄想が過ぎるだろうか。
おそらく、淳史はこういう事態を予測して優生に釘を刺しておいたのだろう。断るとか立ち向かうということが苦手な優生が投げやりになってしまわないよう、根気強く言い聞かせてあったのだとしたら、どうあっても流されるわけにはいかないと思った。
「すみません、俺にはそういう権限はないので……淳史さんのいる時に来ていただけませんか?」
「引っ越してから一度も招いてくれていないと知っているでしょう? あなたから執りなしてくれない限り、淳史の気が変わるとは思えないわ」
そんなことをすればまた淳史の気を逆撫でしてしまうだけで、優生が執りなすのは不可能だと、どう言えばわかってもらうことができるのか。
悩むばかりで答えられない優生が反抗的に写るのか、淳史の母は恨みがましい眼差しで優生を見つめた。
「……どのみち恨まれるのなら、戻って来ないで欲しかったわ。そうすれば、いずれは淳史も諦めたでしょうに」
何と言われても受け止めるしかないとわかっていても、割り切れない思いが優生の胸を刺す。
時間を置いたからといって理解して貰えることはないのだと、優生とは相容れない関係なのだと諦めるしかないのかもしれない。

「あの」
緊迫した空気を破るように、里桜が殊更明るく淳史の母に声をかけた。
「よかったら、うちに寄っていってください。工藤さんのところと間取りは一緒だから部屋の感じは掴めると思うし、甘いものが苦手じゃなかったら、月餅(げっぺい)でも食べながら、みんなでお茶しませんか?」
里桜の気遣いで、先までの重苦しい空気が急速に和らいでゆく。優生には到底為し得ないことが、里桜には簡単にできてしまうのが不思議だった。
「ありがとう。でも、初対面のあなたのところにお邪魔するなんて厚かましくて」
「そんなこと気にしないでください。工藤さんにはすごくお世話になってるし、お母さんと仲良くしても誰にも叱られないと思うし」
少し強引な笑顔に否と言えなかったのか、可愛らしい隣家の“嫁”に興味が湧いたのか、微妙な三人でテーブルを囲むことが確定してしまった。



「ずいぶん可愛らしいお部屋ね。あら、お子さんがいらっしゃるの?」
リビングに足を踏み入れると、淳史の母はその可能性に気付いたようで、確認するように部屋に視線を巡らせた。
淡いピンクとグリーンに彩られた部屋はカントリー風で、とても男二人の住居とは思えない可愛らしさだ。
揃いのアンティークホワイトの家具のひとつはチェスト型のおもちゃ箱で、電車のレールがプリントされたプレイマットが掛かっている。6人掛けのダイニングテーブルの一席にはベビーチェアーが収められていた。
他にも、コンセントキャップやコーナーガードなど、小さな子供が居る家庭なのだろうと思わせるようなアイテムが次々に目に付く。
「うちの子じゃなくて、年の離れた弟なんですけど……義くん、俺の弟にすっかりハマっちゃって、たまに遊びに来るだけなのにリビングを子供部屋みたいにしてしまって、最近じゃ養子に欲しいとまで言ってるんです」
「まあ……ごめんなさい、失礼なことを言ってしまって」
どうやら淳史の母は、養子という言葉で、里桜のことを“子供ができない女性”と思ったようだった。
「そんなことないです。俺には子供産めないし、でも義くんが本当は子供欲しいと思ってるみたいなの知ってるし、他所の子じゃなくて弟だし、恵まれてると思ってます」
「お若いのに偉いのね。でも、ご養子を迎えるというのはいい考えかもしれないわね。“子はかすがい”と言うし、血の繋がった子なら後々面倒なことにもなりにくいでしょうし」
「じゃ、養子に貰った方がいいんでしょうか?」
カウンターの前で立ち止まったまま、お茶の用意をしに行くのも忘れ真剣な顔で問う里桜は、本気で相談に乗って貰おうとしているように見える。
「そうね、一概には言えないけれど、ご主人が子供を欲しいと思っているのなら、それが一番いい方法なのかもしれないわね」
それなりに盛り上がってゆく会話に入る勇気はなく、その矛先が優生に向かってきたらと思うと、早く話題が変わって欲しいと願わずにはいられない。
優生はダイニングテーブルの横で話し込み始めた二人の後ろをそっと通り抜け、キッチンに向かった。勝手知ったる、というほどではないが、お茶を淹れてお菓子を出せる程度には通って来ている。
湯が沸くのを待つ間に、茶托と茶器を用意して、里桜が話していた木の実と小豆の月餅を適当な器を見繕って移しておく。

トレーを手にリビングに戻ると、二人はダイニングテーブルに向かい合って座っていて、すっかり打ち解けた様子で話し続けていた。
静かにお茶を出す優生に、里桜は会話を中断して、申し訳なさそうに頭を下げた。
「ゆいさん、ごめんなさい、俺がしないといけないのに座り込んじゃって」
「ううん、こっちこそ押し掛けてごめん」
本来なら優生が家に招くべきところを、里桜が気を回してくれたことは有難く思っている。もし優生だけだったら、更に怒りを煽ることになっていたに違いないのだから。


「あの、里桜さん? 初対面のあなたにこんなことを言うのはどうかと思うけれど、やっぱり気になって……女性が“俺”というのは感心しないわ」
控えめながら、きっぱりと意見されても、里桜は全く動じた様子はなく、あっけらかんと返す。
「あ、やっぱり、女子だと思われてたんですね。俺、こう見えて男なんです」
「ええっ……本当に?」
「はい。男性ホルモンが著しく不足してるらしくて、見た目も中身も全然男っぽくならなくて」
寧ろ誇らしげに、にっこりと笑う里桜は掛け値なしに女子にしか見えない。
戸惑いを露にする淳史の母は、まだ信じられないと言いたげに問いを重ねた。
「……それじゃ、あなたも緒方さんも“そう”ということ?」
眉を顰める心情に気付かないのか、他人にどう思われようとも揺らがないほどの信念を持っているのか、里桜は疚しさの欠片も窺わせずに答える。
「俺はそうだけど、義くんは違うと思います。男は俺だけっていうか、俺は特別っていうか。工藤さんもそうでしょう? ゆいさんだけが特別なんですよね」
愕然として、暫く言葉を失くしていた淳史の母は、やがて絞り出すように言葉を継いだ。
「そうね……淳史も、優生さんに出逢わなければ……」
「そしたら、まだまだ結婚なんて考えもしなかったんじゃないですか? 工藤さん、他人が自分のテリトリーに入って来たり、束縛されたり気を遣ったりするのは我慢ならないって言ってたから」
「そんなこと……」
否定しかけた言葉を止め、ついには観念したように弱々しく言葉を翻す。
「そうね、私の再婚を機に独り立ちしたのだって、結局はそういう理由だったようだし、一生独身を貫くつもりだったのかもしれないわね」
「一生独りなんて淋し過ぎるし、ポリシーとかプライドとかどうでもいいって思えるような相手に出逢えたのは、すごく幸せなことですよね」
「……そうなのかもしれないわね。誰とも寄り添わずに生きていくよりは、気兼ねのない人と一緒の方がいいのかも」
力説する里桜に、頑なだったはずの人が肯定的な反応を見せた。
迷いながらも容認するような態度に変わったのは、端から説得を諦めていた優生には信じ難い光景だった。



「俺、世界で一番、里桜のこと尊敬する」
誇張ではなく、今の優生の本音だ。
淳史の母が帰ったあとも優生は里桜のところに残り、瞬くうちに親しくなっていった二人のやりとりを思い返しては感心する。
「ゆいさんは気を遣いすぎなんだよね。それに、あのくらいの年代の人って、頭固いっていうか、古い考えがしみついててなかなか改められないから、言っても仕方ないって思っちゃうのもわからないでもないけど。でも、やっぱり根気強く話し合った方がいいと思う」
「うん。そうだよな。里桜を見てたら、ちょっと反省させられた」
否定的な言葉も一先ずやんわりと受け止め、でも、自分の言い分も臆さず話す。卑屈になることなく言葉を尽くし、いつの間にか淳史の母を懐柔してしまったことには軽く感動してしまった。
似たような立場のはずの里桜と親しく言葉を交わす姿に、改めて、優生はわかってもらうための努力をしていなかったことを悔やんだ。
けれども、思わぬ仲立ちを得て、最悪な関係が少しは改善されるかもしれないという期待が持てそうな気がした。






「戻る前に母親から電話があったんだが」
上着の袖を抜きながら、複雑な面持ちで切り出す淳史に、伸ばしかけた腕が固まる。
淳史は優生の動揺など意にも介した様子はなく、脱いだ上着を軽くたたんで肘掛に置き、ソファに腰を落ち着けた。
あまり良い話ではないのかと思い、返事に迷う優生の腕が引かれ、膝へと促される。
「何でわざわざ“隣”に行くことになったんだ?」
「えっと……午後から里桜と出掛けてたんだけど、帰ったらお母さんが下で待ってて。うちに来たいって言われたのを、俺が淳史さんの居るときじゃないとって断ったから、里桜がそれならうちにって言ってくれて、何か隣でお茶することになって……気を悪くさせたんだったら、ごめんなさい」
「いや、うちに入れるなと言ったのは俺だから、おまえが気にすることはない。うちに来てたら、またややこしいことになっていただろうしな。それより、里桜は一体、何をやったんだ?」
漠然とした問いには思い当たることがあり過ぎて、どれを指しているのかわからない。
優生は努めて平静を装って、問い返してみた。
「何って……お母さん、何か言ってた?」
「ああ、いきなり養子を貰えときた。里桜に諭されて、相手が女だからといって子供ができるとは限らないとか、寛げない家庭なら意味がないということに気が付いたと言うんだ。それで、うちも義之のところを倣って養子を貰えばいいと考えたらしいんだが……里桜がそんなことを言ったのか?」
「ううん、たまたま義之さんが里桜の弟をすごく可愛がってて、養子に欲しがってるって話になったんだよ。で、里桜が自分には子供は産めないし、そうした方がいいのかなって、お母さんに相談した感じで……話してるうちに、お母さんの方がそういう結論に至ったっていうか」
「それで、うちも養子を貰えばいいいと思ったのか。全く、俺がどれだけ説得しても聞く耳持たなかったものを、里桜と話しただけで気が変わるとはな」
「うん。俺も、里桜がお母さんをさりげなく“洗脳”するの見て感心しちゃったよ。やっぱり、可愛いと得だよね」
「単に女に見えただけなのかもしれないが、少なくとも俺の親には気に入られたようだな」
そうと知ってはいても、淳史から言われるのはショックだった。
もしかしたら、そもそも里桜が淳史の相手だったら反対されなかったのだろうか。
「優生?」
黙り込んでしまった優生の頬を、大きな手のひらが包み、俯こうとするのを止められる。
「……ごめんなさい、俺は可愛くなかったから」
微かに笑う気配を、目を伏せていてもごく近くに感じた。
「俺は、おまえの方が可愛いと思うが」
そんなわけがないのに、思わず見上げた優生と目が合う淳史は、とても嘘など吐いているようには見えない。
主観の違いでしかなくても、そう思ってもらえるのは優生には途方もなく幸せなことだった。



- Do Me More(3) - Fin

【 Do Me More(2) 】     Novel     【 Do Me More(4) 】


'09.10.8.update

淳史ママの攻略は難しそうだったので、里桜に援護を頼んでしまいました。
里桜と淳史ママが仲良くなる過程をもっと書きたかったのですが、
主役を食ってしまいそうだったので割愛……。
機会があれば、また「ちゃいな」の方ででも触れるかもしれません。