- 寝ても、覚めても -
(番外掌編)



息苦しさに、小さく胸元をタップする。
深い眠りの中にいるらしく、淳史は優生を抱きしめている腕を緩めてくれそうにはなかった。
なんとか少しでも空間を取ろうと捩った体が、更にきつく抱きしめられる。
「……優生」
いつも以上に低い声は少し掠れていて、起こしたかったわけではなかったが、結果的にそうさせてしまったらしかった。
「ごめんなさい、起こすつもりじゃなかったんだけど」
「どこへ行くつもりだ?」
物騒なほどに凄みのきいた声は、眠りを妨げられたからではなさそうだった。淳史がとんでもない勘違いをしているらしいことに気付いて、なるべく穏やかに返す。
「どこにも行かないよ?」
「それなら、どうして抜け出そうとしたんだ?」
「抜け出そうとしてたわけじゃないよ、ちょっと窮屈だったから」
「緩めたら出て行くんだろうが」
その言葉の深さに気付いて胸が痛くなる。こんな風に束縛させてしまうことになったのは優生のせいだと、今なら素直に認めることが出来た。
淳史の肩の辺りへと抱きよせられていた顔を、わずかに上向けて瞳を覗き込む。
「どこにも行かないよ」
「本当か?」
「うん」
見つめ合ったあと、もう少し伸び上がって淳史の唇に触れた。一瞬、驚いて動きを止めた体が、また優生の背を痛いほどに抱きしめる。
誘っているのだと勘違いされないように、触れ合うだけの軽いキスに留めて唇を離した。名残惜しげに追い掛けてくる唇を受け止めてから、やんわりと躱す。
「まだ早いから寝直そう?」
「……そうだな」
おとなしく同意した淳史はそれ以上のことを仕掛けてこようとはしなかったが、優生を抱く腕は力を増すばかりで、その思いの丈が痛いほどに伝わってきた。
「おまえからされるのは初めてだな」
それがキスのことを指すのだと、すぐには気が付かなかった。そういえば、好きでもない男にさえ平気で出来たのに、なぜ淳史には出来なかったのだろう。
「……そういうのは嫌い?」
「嫌いなわけないだろうが。おまえはしたくないんだろうと思ってたんだ」
優生も、淳史は慎ましい方が好きなのだと思い込んでいた。しょっちゅう抱かれていたい優生のペースに合わせて、淳史が無理をしてくれているのも、本当は少し辛かった。
「……しても、いい?」
「むしろ、しろと言いたいくらいだ」
その言葉に甘えて、もう一度、そっと優生から唇を寄せた。



- 寝ても、覚めても - Fin

【 まだ足りない 】     Novel       【 腕の中にいるのに 】  


ほんと、優生から淳史に行動を起こしたことってないんです。
キスは、反応が怖くて出来なかったというよりは、
ただ単に優生からする機会がなかったのかもしれません。
(淳史が意外とキス魔なのでvv)