- まだ足りない -
(番外掌編)



「淳史さん、この頃ヘンだよ?」
まだ優生を離してくれそうにない淳史の胸をそっと押し返す。
この頃の淳史は本当に変で、家にいる間中ずっと密着して過ごしているだけでなく、唇は絶えずキスをくり返し、異常なほどに優生の体に執着しているような気がする。一日置きで落ち着いたかに思えていた行為も、このところ連日で、しかも一度で済んだことがなかった。
「そうか?」
軽く流されて淳史の下へと組み敷かれても、心配が先立って簡単に身を任せる気にはなれない。
「まさか、ヘンな薬飲んだりとか、してないよね?」
「変な薬って何だ?」
「え……と」
何と言えば良いのかを迷う。媚薬というのでもないだろうし、滋養強壮剤といえば栄養剤のようにしか聞こえないかもしれない。
「……精力剤?」
言い終えないうちに、軽く頭を小突かれた。
「誰がそんなもの飲むか」
「だって……」
軽く半月以上、キスと抱擁だけで過ごしたことがあったほどなのに、この状況は尋常ではないような気がする。
「おまえはよく寝込むから自制しないといけないと思ってた頃、仕事が忙しくなって予定外に間隔が空いたんだ。まさかおまえがそんなに拘る奴だとは思ってなかったしな」
暗に淫乱だと言われても何も返す言葉のない優生の、内腿を撫でる手が意図することに気付いてびくりとした。
淳史の言い分は尤もかもしれないが、だからといってこれは過剰なのではないだろうか。
「……淳史さん、両極端だよ。中間はないの?」
「悪いな、なさそうだ」
それ以上、言葉で説得することは出来なかった。熱っぽく重ねられた唇が、淳史の熱を鎮める方法は他にないと伝える。
膝を抱き上げられて硬く張り詰めたものを押し付けられると、先の行為で潤んだままの場所は殆ど抵抗なく淳史を受け止めた。
「っ……あ、ん」
緩やかに、けれども奥まで身を沈められると強い圧迫感で呼吸が苦しくなる。短く息を吐きながら、なるべく体に籠る力を逃がそうと努めた。
頻回になったぶん、それまで以上に優しく扱われていると思う。ただ、その優しさは、少しでも長く繋がっていたいということのようで、淳史は優生をなかなか離そうとはしなかった。


事後もやはり淳史の腕に包まれたまま、くり返されるキスに溺れそうになりながら、言い掛けては躊躇っていたことを切り出してみることにした。気を悪くさせないように伝えるのはひどく難しい。
「淳史さん、もしムリしてるんなら……俺、もう大丈夫だから」
「これでも壊さないように気を遣ってるんだ、煽るようなことを言わないでくれ」
抑えてくれなくても構わないと言ったわけではなくて、無理して抱かなくても大丈夫だと伝えたかったのだった。
「俺も、くっついてるだけでも安心するっていうの、わかるようになったから……そんなに心配しないで?」
「おまえが浮気するんじゃないかと心配してるわけじゃない。ずっと抱いてないと落ち着かないんだ」
まるで、優生の不安が伝染したかのような弱気な口調に胸が痛む。もう誰にも取られないと、信じてもらうにはきっと時間が必要なのだろう。それでも、言わずにはいられなかった。
「ごめんなさい、もう誘惑されたりしないから心配しないで」
「……信用してるからな?」
生半可な相槌など打てないくらい重く響いた言葉に、優生はしっかりと頷いた。
確かめるように触れてくる唇にキスを返す。それが約束のしるしだとしても、疚しいことはない。
また淳史を仕事に取られそうになったとしても、見返りが望めなくても、もう優生は誰にも迷ったりしないだろうと思った。



- まだ足りない - Fin

【 言葉よりも、雄弁な 】     Novel       【 寝ても、覚めても 】  


たぶん、精力剤ってそんな嫌らしい言葉でもないと思うのですが、
優生の表情だか口調だかが、きっと“やらしー”感じだったのでしょう。
タイトル、“まだ書き足りない”という方が正解かもしれません……。