- 愛のかたまり(9) -


塞いだ唇は想像以上に甘く、その先まで求める思いを強くさせる。
閉じきらない唇をなぞりながら舌を中へと滑り込ませても、南央は呆然としたようにされるがままだった。歯列の裏側を撫で、舌先に触れても抵抗らしいものは返らず、軽く擦り合わせてから絡め取る。
逸る気持ちはあったが、南央の洩らす吐息ひとつ逃すのも惜しく、優しく吸い取っては微妙に角度を変えながらより深めてゆく。
苦しげに腕の狭間で小さく首を振る仕草にさえ煽られ、南央が何も知らないようだと思っていたからこそ大人らしく接してきたことも忘れて、欲望の赴くままに貪った。
細い腕で溺れそうに俊明の背に縋りついてくる仕草も愛おしく、南央の全てを自分のものにしてしまいたい欲求に拍車がかかる。
滑らかな顎のラインに伝った雫を舌で追い、晒された喉を唇で辿ってゆく。微かに震える胸元に手のひらを這わせ、シャツの下の小さな突起を探したのは殆ど無意識だった。
「ひゃぁ」
俊明の指先がそこを摘んだ瞬間、南央の背が跳ねた。感じ入ったように仰け反り、濡れた声を洩らす。
「いや……何、で……っ」
南央のこめかみへと溢れた涙に気付いて我に返った。
年齢以上に幼く見える泣き顔は、高揚感に水を差し、否応なしに俊明に罪悪感を抱かせる。
とはいえ、泣かせてしまったことを可哀そうに思う気持ちと、これまで俊明を軽々しく誘ってきた経緯とのギャップに戸惑いを覚えずにはられなかった。どちらが本当の南央なのか、未だ判断がつきかねている。
「……キスもしたことなかったの?」
「だから待ってくれていたんじゃなかったの?」
一番狡い言葉を返す南央に、軽く怒りがこみあげてきた。俊明を見上げる潤んだ瞳は、憐れみよりも情欲をそそる。
「そうじゃないよ。僕のものになると思っていたから、待っていられたんだ。逃げる気だと知っていたら、もっと早く全て奪っていたよ」
「やだ、そんな言い方……」
「それなら、他に何できみを縛ればいい?監禁でもする?そんなことをして警察沙汰にでもなれば二度と会えなくなるかもしれないのに?」
無理に押し込めてきた欲望は、なまじ触れてしまったばかりにもう止められそうになかった。
「でも、高校生になるまでダメって言ってたの、俊さんなのに」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。聞き違いではないかと思いながら、問い返す。
「高校生になるまでって、まさか、ナナは中学生ってこと?」
「そうだよ?」
何を今更と言いたげな返事に、俊明は思い違いをしていたようだと悟った。
「でも、授業料って……ああ、そうか、晴嵐は私立だったね。ナナはしっかりしているから、まさか中学生とは思いもしなかったよ」
「じゃ、俺のこと、高校生だと思ってたの?」
「そう思い込んでいたよ。一応、確認しておくけど、ナナは今14歳?」
「うん」
「参ったな……ナナが高校生でも犯罪だと思ってたのに、中学生じゃ、僕は凶悪犯だね」
さすがに、邪な欲望も鳴りを潜めるほどの衝撃だった。
いくら頭に血が上っていても、ローティーン相手に本能を剥き出しにしてしまうほど人でなしではないと、自分では思っている。



- 愛のかたまり - Fin

【 愛のかたまり(8) 】     Novel     【 愛のかたまり(10) 】


2009.11.21.update

いくら書いても足りないというか、俊明は本当はもっとエロいこと考えてるんだろうなーとか。
やっぱり、卒業まで待つとか絶対ムリでしょう。