- 愛のかたまり(10) -



「……しないの?」
俊明の焦燥ぶりを見て余裕を取り戻したのか、南央はいつもの怖いもの知らずの子供に戻ったように、挑発的に問いかけてきた。
心残りは甚だしいが、続きを望めるわけがない。
「さすがに義務教育も終わっていない子に“淫行”を働くわけにはいかないよ」
「ふうん」
ついさっきまで怯えて泣いていたのは別人だったのかと疑ってしまいたくなるほども、南央は冷めた顔をして服を整え、乱れた髪をかき上げた。
まるで、もう俊明に用はないと言いたげな間の取り方に、情けないほど狼狽えている。つまるところ、南央の本心が掴めないという現状は全く変わっていないのだった。
「まさか、しないなら別れるというつもりじゃないだろうね?」
視線を微妙に外し、答えない南央の態度は肯定以外の何ものでもなく、焦りばかりが募ってゆく。
「ナナ?僕がきみにこれ以上のことをしないのは、“したくない”からじゃなくて、“してはいけない”気がするからだよ?」
言い訳ではなく、本心からそう思っている。法律や条例で定められているからというより、心身ともに成長途上の未成熟な相手に対して、安易にするべき行為ではないというのが俊明の考えだった。
「……どっちでもいいよ。どうせ、そのうち俊さんは女医さんとか、取引先の社長令嬢とかに気に入られて結婚するんだろうし」
投げやりなもの言いは、もう俊明に興味はないというサインにしか取れず、南央の達観したような態度のわけもわからない。
「その決定事項みたいな言い方は何なのかな?僕にはバツが二つもついてるのに、もう縁談なんて来ないよ」
「そんなことないでしょう?俊さんはまだ若いし、家柄もいいし……跡継ぎだって要るんだろうし、放っておいてくれるとは思えないよ」
南央が引こうとする理由がわかると、少し気が楽になった。敢えて言う必要はないと思っていたが、それで南央の思い込みを訂正できるなら、黙っている意味はなくなってしまった。
「僕にはもう子供がいるよ」
慎重に南央の反応を窺いながら、続ける言葉を選ぶ。



- 愛のかたまり(10) - Fin

【 愛のかたまり(9) 】     Novel       【 愛のかたまり(11) 】


2009.12.13.update