- 愛のかたまり(11) -



「ごめん。話してなかったけど、僕の幼い弟というのは、戸籍上は僕の嫡出子ということになってるんだ。最初に離婚してから半年と経たないうちに、奥さんだった人の妊娠が発覚してね。もう一度籍を入れて認知もしたんだけど、実は僕の子供じゃなくて、僕の父の子供だったんだよ。それがわかったとき母と相談して、認知は取り消さずに父の養子という形を取ったから、戸籍上も遺伝的にも、僕の弟なんだ。だから、もう跡継ぎはいるから、そんな心配はいらないよ」
子供がいると言ったときにはそれほど驚いた風ではないように見えたが、なぜか南央は話すほどに表情を強張らせてゆく。
「黙っていて悪かったよ。でも、ナナが最初に僕のことを何も知らなくても構わないみたいな言い方をしていたから、敢えて不利なことを話す勇気が出なくてね」
「……俺も、助けて貰ったの運命みたいに思い込んで、勝手に盛り上がっちゃってたかも。最初はホントに、つき合ってくれるだけでいいって思ってたんだ。なのに、いつの間にか欲が出てきて……」
俯いてゆく南央の頬へ手を伸ばす。ものわかりの良さは前の恋人を思い出させて、俊明を不安にさせる。
「僕は最初から軽い気持ちじゃなかったよ。ナナに出逢う前にいろいろあって恋愛するのは億劫になっていたし、ナナみたいに若い子が相手だと慎重にならざるを得なくてね。好きになるほど、自重しなくてはいけないと自分を諫めるのに骨が折れたよ」
「うそ……そんな感じ、全然……いつも、俺には興味ないみたいな顔して」
心底驚いたというような表情の南央に、俊明は本心を正直に伝えることにした。
「だから、なるべく感情を抑えるようにしていたんだよ。それでも、我慢できなくてナナを帰さなかったこともあっただろう?」
「でも……結局、一緒に寝るだけで何もしなかったし、したそうな感じでもなかったし」
時として暴走しそうになる劣情を悟られないよう細心の注意を払ってはいたが、南央にはそういう風に作用していたとは思いもよらなかった。
「寝ている間に抱きしめていたこともあったよ。さすがに意識のないときまで自戒することはできなかったみたいでね。だから、理性を飛ばさないよう、“溜めない”ことにしているよ」

漸く、南央の表情が和らいだ。
俊明が洩らした余計な一言は南央には理解できなかったようだったが、漸く南央の表情の強張りが解けてゆく。



- 愛のかたまり(11) - Fin

【 愛のかたまり(10) 】     Novel       【 愛のかたまり(12) 】


2009.12.18.update