- 愛のかたまり(6) -



抱きとめた体の、あまりの細さに面食らった。
食事を摂った店の外で、歩道との段差に躓き転びそうになった南央を支えるつもりで出した腕は咄嗟のことで力の加減ができず、痛い思いをさせてしまったような気がする。
いや、それ以上に、その折れそうに細い腰に劣情をそそられたと悟られることを恐れて、慌てて身を引いたのかもしれない。
ひどく細い、たおやかな体に中性的な容姿が、今の俊明の“どストライク”だと認識させられた瞬間でもあった。

何か言いたげに顔を上げた南央の様子がおかしいと気付き、突然の衝動に焦るあまり俊明が不自然な態度を取ったことで誤解させようだと思い至る。
「ナナは思っていた以上に細くてびっくりしたよ。思わず力が籠もってしまったけど、大丈夫だったかな?」
「え……あ、うん」
即行フォローに回った俊明に、南央は拍子抜けしたようで言葉が上手く続かないようだった。
「肩幅も狭いし体も薄いし、強く抱いたら折れてしまいそうな気がするよ。こんなに華奢な男の子はそういないだろうね」
明確に口説くわけにもいかず、ほどほどに期待を持たせるような言い方をするのはいつものことで、どうすれば好奇心ばかりが先走る幼い恋人に愛想を尽かさせず繋ぎ止めておけるのか苦慮してしまう。そうでなくても自分の忍耐力にはあまり信用がおけないというのに、寧ろ襲って欲しいと言わんばかりの無防備さには、いつまで自制できるか甚だ怪しい。
内心の葛藤はさておき、含羞んだように俯いた南央の首筋は赤く、ひとまず弁解は聞き入れられたようでホッとした。

そのまま南央を連れ帰ろうとしていた俊明の邪魔をしたのは母親からの電話で、自宅に戻って以来めっきり実家に顔を出す機会の減った俊明の週末の予定を確認するものだった。
日曜はだめだと断り、休出がかからなければ土曜に、という曖昧な返事で手短に通話を終え、少し距離を取って待つ南央を追いかける。
もっと一緒に居たいと思い俊明のマンションへと誘ったが、南央の返事はずいぶんと素っ気無いものだった。
その後のやり取りでも、南央の受け答えは優等生過ぎて、それが余計に俊明を我慢のきかないダメな大人にしてしまう。
おそらく南央には駆け引きをしているつもりなどなく、聞き分けがいいということは俊明に対する思い入れも浅いということで、本気になっているのは俊明だけだということになる。
ただ引き止めるためだけに思わせぶりな行動をするべきではないとわかっていても、その肩を抱き寄せずにはいられなかった。
「まだ帰したくないけど、だめかな?」
不謹慎なほど熱っぽく、耳元で囁く俊明の思惑に背くことなく、眼下に晒された南央の首筋が再び赤く染まっていく。思いの方向性はともかく、南央を連れ帰ることには成功したようだった。



- 愛のかたまり(6) - Fin

【 (5) 】     Novel       【 (7) 】


2009.9.8.update

〔私信〕
俊明にもっとヘンタイちっくに妄想してもらおうかと思ったのですが、
これ以上イメージを崩すといけないので自戒しますーv