- 愛のかたまり(5) -



「途中で寝てしまうかもしれないけど、いい?」
予めそう告げられていた通り、ほどなく南央は俊明の肩に凭れたまま気持ち良さそうに眠ってしまった。
警戒心のなさは俊明を信用しているからか、幼さゆえの無防備さか、寝入ってしまった南央は軽く揺すったくらいでは目を覚ましそうになく。
暫くは南央を肩に抱いたまま画面を眺めていたが、もう脳はストーリーを追えず、ただ腕の重みにばかり気持ちが傾いてしまう。
このままでは我を忘れて意識のない相手に無体なことをしてしまうのではないかと自分の自制心が信じられなくなり、迷った挙句、場所を変えることにした。


ベッドへ連れて行って横たわらせても南央はくうくうと安らかな寝息を立てるばかりで、全くもって身の危険を感じていないようだった。
影になった南央の寝顔が見たくて、頬にかかった長めの髪を払う。さらさらと零れ落ちてくる艶のある髪を梳く手はそれだけで留まらず、頬を撫でずにはいられなかった。
そっと指を滑らせて顎を上げさせ、規則正しい呼吸をくり返す唇に触れると、異常なほどに脈が速くなってゆく。
おそらく、深い眠りの中にいる南央にもう少し触れたところで気付かれることはないだろう。薄く開いた唇から覗く舌の感触や、シャツの下の肌の手触りを確かめることも、今なら簡単そうだった。

おそろしく甘い誘惑を、軽く首を振って払う。
触れてしまえば、少しで済ませられるはずがないとわかっている。きっと、大人失格な事態にまで発展してしまうことは目に見えていた。
一度でも南央を“そういう対象”に見てしまえば、二度と抑えがきかなくなるだろう。わざわざ、南央が卒業するまではプラトニックな交際だと言っておいたのは自戒の意味の方が強かったのだから。

何とか衝動をやり過ごしてから、南央の胸の辺りまで薄い肌掛けで覆い、生地を隔てた隣へと横になった。
心身ともに未成熟な南央を焦らせたくはない。たとえ痩せ我慢であっても、俊明は余裕のある大人の顔をして、無理に背伸びをしなくても機が熟すまで待っているというスタンスでいなければいけないと思っている。
実際には、俊明が南央に対して紳士的でいようとし過ぎたせいで、却って不謹慎な事態を引き起こしてしまうのだったが。



- 愛のかたまり(5) - Fin

【 4 】     Novel       【 6 】  


2009.8.16.update


俊明がヘンタイさんだと思われたらどうしようと密かに不安です……。