- 愛のかたまり(3) -



「……どうやら僕は離婚すると男の子を拾うことになっているらしくてね」
子供らしい、真っ直ぐに瞳を覗き込んでくる視線に耐え切れず、俊明はつい本音を明かしてしまった。
「じゃ、俊さん、男も大丈夫ってことですよね?」
期待に満ちた眼差しに辟易しながら、明確に答えることはできずに苦笑する。
「どうかな……前につき合っていた人は例外というか、中性的な感じだったからね。いかにも男って感じの人は無理かもしれないな」
「俺って、いかにも男って感じですか?あんまり言われたことないんだけど……あ、これから男っぽくなるってことですか?」
先回りして悲しげな顔をする南央に、つい庇うような言葉をかけてしまう。
「きみも外見はどちらかといえば中性的だと思うよ。成長期といっても、もうそんなに極端な変化はないだろうしね。個人的な好みを言えば、きみのように“可愛い”と“綺麗”の中間くらいの顔がタイプだし、少し細すぎる体つきもいいなと思うよ」
本音を言えば南央のように華奢で小綺麗な男が対象外のはずがなく、それはかつての恋人の名残のように俊明を誘う。油断をすれば、すぐにも押し倒してしまいたくなるほども。
「それなら、サポとかいうんじゃなくて、俺とつき合ってくれませんか?」
明快に口説き始めた南央は、殺人的な無邪気さで俊明を誘惑する。
「俺、次の人が決まるまでのツナギでもいいし、軽いつき合いでもいいです。つき合ってくれるんなら、もうしつこくしないし、俊さんが前の人を忘れるまで待ってます」
俊明が断ったところでまた別の男を誘うだけで、それでは南央を救うことにはならないと、身勝手な言い訳に負けそうになる。
「……僕のことを何も知らないのに、そんなことを言って大丈夫かな?」
「初対面の俺に5万も払ってくれて、何の見返りも要求しないし、こんないい人はいないと思います。もし、騙されたとしても、悔いはないです」
まるで俊明を信頼しきっているかのような返事に、大人気なく頭に血が上った。良識ある大人でいようとすることがどれほどの労力を強いられるか、大胆な行動と裏腹に中身は幼いらしい南央は気付かないらしい。
「僕は逆の心配をしているんだよ。僕はつき合った人のことは好きになってしまうからね。僕が本気になったとき、きみは責任を取ってくれるのかな?」
「責任って、どういう……?」
「興味本位じゃなく、ちゃんと僕の本気につき合える?思っていたのと違ったとか、やっぱりこんなおじさんは嫌だとかいうことにならないかな?」
「遊びじゃないっていうこと?俊さんが構わないなら、俺もその方がいいです。俺、最初は優しい年上の人がいいって思ってたし……」
うっすら顔を赤らめた南央は、“本気”を軽く考えているようだった。そんな無防備に、全て俊明に許すと言わんばかりの表情を見せられたら、期待せずにはいられなくなってしまうのに。
「誤解があるようだからハッキリ言っておくけど、きみが卒業するまでは“清いおつき合い”だよ?」
「ウソ……あと、2年近くあるのに?」
手近な誘惑は確かに魅力的だったが、俊明が本当に欲しいと思っていたのは刹那的な関係ではなく、永続的に愛を傾けられる相手だ。
もちろん、幼い南央にそんな寒いことを望んでいると告げるつもりはないが、つき合いが続けば、嫌でも俊明の気持ちを無視することはできなくなるだろう。
「きみは僕を犯罪者にしたいのかな?未成年者と性関係に至ったら、“真摯な交際関係”であっても罪に問われる場合があるようだからね。特に、同性間では“結婚を前提としない”と取られかねないし、きみの親に訴えられたら僕は逮捕されてしまうんだよ?」
「……じゃ、それは保留でいいです。つき合ってくれることになっただけでも、すごいことだと思うし」
「保留じゃなくて延期だよ?」
「どっちでもいいです、俺には同じことだから」
やや不満げにではあったが、南央は俊明の条件を飲むことにしたようだった。



- 愛のかたまり(3) - Fin

【 2 】     Novel       【 4 】  


2009.7.19.update