- 愛のかたまり(2) -



俊明が助けた(もしくは援交の邪魔をした)学生は芝南央(しば ななか)と名乗り、お金だけでなく泊まる場所が必要なのだと言った。
家出を疑う俊明に、複雑な家庭事情で今日は帰れないと言い、俊明の家へ来たがった。
初対面の男について行こうとする無謀さを説いたつもりが絆され、結果、 連れ帰ることになり、風呂と着替えを提供し、泊めるに至っている。
道すがら、南央が学校の授業料を失くし、それを贖うために援交を思い立ったことと、自分の性癖の確認にもちょうどいいという安易な考えで行動を起こしたことを聞いた。
男に絡まれていたところに俊明が通りかかったという出逢い方も、華奢で儚げな雰囲気も、かつての恋人と共通していると思っていたのに、“俊明さん”と呼ぶ声のトーンまでが似通っているようで驚かされた。まるで、やり直す機会を与えられたような気になってしまうほどに。
俊明のパジャマを着て風呂から上がってきた南央はあまりにも細く無防備に見えて、庇護欲よりも支配欲を駆り立てられて、柄にもなくうろたえた。
肩が合わず広く開いた襟元から、ほんのりと色づいた薄い胸元が覗く。折り上げた袖から伸びた腕は細く、色気や艶といったようなものとはほど遠いのに、異常なほどに俊明の脈を煽る。
油断すれば取り返しのつかないことになりそうな気がして、南央に先に寝ておくように言い置くと、逃げるように風呂場に向かった。
いつになく長湯せざるを得なかったのは、まだ幼げな南央に抗いがたい引力を感じていたからで、それも、口では否定したはずの即物的な欲という情けなさだった。
自分のことを節操なしだと思ったことはないが(聖人君子のようだとも思っていないが)、自制のきかない衝動を持て余してしまう。
二度目の離婚をしてから誰かと深くつき合う気にはなれず、かといって刹那的な関係で紛らわせたいとも思えず、生理的な欲求もおざなりにしていたことに気付いた。
いくら南央が真面目そうに見えても男の袖を引くようなことをしかけていたのは事実で、大人としては道を踏み外させないよう導かなければならないという建て前と、据え膳は食うものだという大人の都合のいい言い訳がせめぎ合う。
名乗るときに敢えて社員証を見せたのは自戒の意味もあり、(よもやこんな事態に陥るとは想定していなかったが、)それが俊明をかろうじて踏み止まらせているともいえる。
のぼせそうな体を水で冷ましてからリビングに戻ってみれば、南央はまだソファに座って待っていた。
今にも閉じてしまいそうな目を、懸命に堪えて。



- 愛のかたまり(2) - Fin

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2009.6.22.update