- 愛のかたまり(1) -

☆『みー』の視点を俊明に変えただけのお話です。
続きものになる予定なので、苦手な方は回避してください。



「ごめんなさい、やっぱり俺……」
遠慮がちに抑えた声が、足早に行き過ぎようとしていた俊明の興味を惹いた。
高過ぎず低過ぎない中性的な耳障りの良いトーンは心なしか震えて、そのまま押し切られてしまいそうな弱々しさが庇護欲をそそる。
けれども、終電が去った後の駅の構内は閑散としていて、その控えめな小競り合いに目を留める者は俊明の他にはいなかった。
男に掴まれた腕を振り解こうと抗う華奢な体が、抵抗の甲斐なく引き摺られるように俊明の横をすり抜けてゆく。
「今更そういうことを言うなよ、金が要るんだろ?」
訳知り風な男の言葉に、あどけないと言っても差し支えないほど幼さを残した横顔は青ざめ、細い腰に伸びてくる手のひらに身を竦めながら、何とかこの場に留まろうと努めている。
ふと覚えた既視感にドキリとした。
小綺麗な顔立ちをしているが、どこか自信のなさそうな瞳と頼りない物腰が、俊明の知る面影に重なる。場所の違いはあっても、かつての恋人に出会った時を彷彿とさせるようで、俊明はその光景を見過ごすことができなかった。
今にも連れ去られてしまいそうな痩せた体を背に庇うように、二人の間に割り込む。細い手首から男の指を外させ、自由になった手を包むようにそっと繋ぐ。
「悪いけど、僕が先約なんだ」
「なっ……後から来て何言って……」
見るからに短気そうな男が荒い声を上げる。
せっかく捕まえかけた上等な獲物を奪われそうだと、本能的に察したのだろう。
「僕が来るのを待ちきれなかったらしくてね、勘弁してくれないか?」
やんわりと返しながら、否と言わせぬ強い視線で男を睨めつける。
静かな睨み合いに根負けして先に目を逸らしたのは本来優先権のあるはずの男の方で、粘っても無駄だと悟ったのか、いくつか悪態を吐いただけで去って行った。
呆然と、俊明を見上げたまま立ち尽くしている高校生と思われる相手に声をかける。
「余計なことをしてしまったかな?」
「あ……いえ。すみません、助かりました」
我に返ったように慌てて頭を下げると、今度は真っ直ぐに俊明の目を見つめてきた。
到底、援交まがいのことを(もしくはそのものを)しようとしていたとは思えないくらい顔立ちも態度も真面目そうで、色事に長けているようには見えない。何か事情があってのことだったのかもしれないが、かなり晩熟なように思えた。
そういえば、前の恋人と会ったのも離婚したばかりの頃だったと、とりとめのない考えが頭を過る。
よもや、それがジンクスになってしまったようだとは、俊明はまだ気付いていなかった。



- 愛のかたまり(1) - Fin

Novel     【 (2) 】  


2009.5.11.update

実は、タイトルは書いてるときのBGMから頂きました……。
カバーバージョンじゃなくて、KinKi Kidsの方です。
今後、タイトル負けしないような展開になることを祈りつつ。