- 暗示 -



「里桜?だいぶ赤いようだけど大丈夫?」
義之の声が心地良く響く。肩を抱くように回される腕に甘えて、義之の胸元へ凭れかかった。
「うん……なんか気持ち良くなってきたかも」
最近やみつきになりつつあるチューハイが、里桜の体温を上げていく。
「そろそろ効いてきたかな?」
「え、何が?」
「一服盛ったんだけど」
さらりと告げられた言葉に、一瞬で酔いが醒めるかと思った。
「も、盛ったって、何?」
「君の飲んでたチューハイに……媚薬っていうのかな?体の芯が熱くなって、体中が敏感になって、僕が欲しくてたまらなくなるクスリ」
「ウソ……なんで、そんな」
さも可笑しげに里桜を見る義之に、思わず身が引ける。逃げようもなく、狭いソファへと倒されてゆく。腰の辺りから忍んできた掌に応えるように体が跳ねた。
「いや……」
パジャマ代わりのTシャツの中を探ってくる手が、小さな突起に触れただけで吐息が洩れた。指先に弄ばれるうちに体の奥から何かが湧き上がってくる。
「あ、いや」
不意に離れていく手に抗議するように声を上げた。潤んだ瞳を上げると、義之が困ったように笑った。自分で一服盛っておきながら呆れるとはひどい恋人だと思う。
「……責任、取って?」
見上げると、まだ笑みの形のままの唇が近付いてきた。
触れ合ううちに体の芯から蕩けていくようで、両腕で義之の首へ抱きついて、もっと深いキスをねだった。もしかしたら、里桜は物凄く薬が効きやすい体質なのかもしれない。
「ん……っふ」
もっとキスをしていたいのに、何かにせっつかれたように体が逸る。
片袖を抜かれたTシャツの衿が頭を通る。もう片腕に残った袖を引かれて、Tシャツがラグへと落ちた。デニムのボタンがひとつふたつと外される間に腰を浮かせて協力する。一秒でも早く、体の深い所で義之を感じたかった。
「も、して」
まだシャツの前を緩めただけの義之を急かすように、ボタンに指をかける。
「あ」
「そんなに我慢できないの?」
小さく笑った義之に手首を掴まれて阻止される。仕方なく義之を脱がせるのは諦めた。きっと、放っておいてもすぐに脱ぐのだろうが。
「……っん」
ひどくゆっくりと里桜の中へ埋まっていく指に焦れる。早く、と言ってしまいそうで思わず唇を噛んだ。
「里桜?」
気遣うような声に小さく首を振る。待っている方が辛かった。指を感じられるように腰を揺する。
「ああ……っん……」
「里桜?指じゃなくて僕のを入れたいんだけど?」
意地悪な声が耳元で囁く。
首を振る里桜の中から強引に指が抜かれて、里桜の待ちかねたものがゆっくりと埋められていく。
「は、あん……ああっ……ん」
馴染ませるように何度か浅く入れては引かれ、たまらずに迎えにゆく。
繋がったまま腰を引きよせられて、義之の膝へ乗せられたような格好になった。腰を掴んだ手が前後に揺する。
「里桜……自分で動いて」
促されるまま、腰を揺らしながら気持ちの良い位置を探す。何かに支配された体が、夢中で快楽を追いかけた。


パジャマを着るのも億劫なほど疲れた体を、義之が運んでくれたベッドで休ませる。
いつものように腕枕に身を任せて目を閉じる。すぐにも眠ってしまいそうな里桜に、また義之が意地悪げな声をかける。
「里桜、もしかして本気にした?」
「……何?」
「本当にクスリが入ってたと思ったの?」
「え……だって、そうじゃなかったの?」
そのせいで、こみあげてくる欲情に抗えなかったのだとばかり思っていた。
けれども、よくよく思い出してみれば、里桜が開けた缶のままのチューハイに何かを盛るのは不可能だったかもしれない。
「僕はそんなに信用ないのかな?」
「……だって、しそうだもん」
冷静に考えれば、いくら義之の性格が悪くても、特に怒らせたわけでも何でもない時にそんなことをするはずはなかったのだったが。
「むやみにそんな薬を使うわけがないだろう?副作用だって心配だし」
「だって」
「それに、そんなものを使わなくても里桜はすぐにメロメロになるのに」
悔しいけれど、それは本当かもしれない。
「……今度、俺が盛るからね?」
「いいけど、僕の理性が効かなくなっても知らないよ?」
そうでなくても、義之は見た目よりよほどタフなのに。
「やっぱ、やめる」
まだまだ義之には敵いそうにないことを思い知らされて、里桜は諦めて目を閉じた。


- 暗示 - Fin

Novel     【 口調 】


引越し早々何書いてんの?って感じですが……(^^ゞ
里桜はたぶん暗示にかかりやすいタイプだろうなあと。
もうちょっとキチクっぽくしたかったのですが、らぶらぶ過ぎてムリでした……。
ほんと、クスリもおもちゃも必要なさそうな二人です。