- 仔猫でもないのにドメスティック -

〔注意というより警告〕
れすきゅー既読の方を、いろんな意味で裏切ったお話となっております。
(未読の方には特に何も問題ないと思いますー)
なので、冒頭からネタバレしておくことにしました。苦手な方は回避してください。
このお話は、【 黒×紫 】となっております。



枕元を震わせる携帯に気付いて手を伸ばす。
休日に予定が入っていなければ昼夜逆転生活を送ってしまうような紫(ゆかり)にとって、16時は微妙な時間だった。そうでなくても、風邪による睡魔はキリがなく、聞こえなかったことにして眠りに戻ってしまいたい誘惑に駆られる。
それでも、登録されていない携帯番号からの電話は、同僚の工藤の恋人で目下失踪中の優生(ゆいき)からの可能性を捨て切れず、無視することは出来なかった。
「はーい」
努めて明るく電話を受ける紫に、一呼吸置くのは優生のクセだ。
「黒田と申しますが、渡辺梨花さんの件ではご迷惑をおかけしました」
「え……と……あ、ああ、工藤のストーカーしてたお嬢サマの……」
予想が外れた驚きと、あまりの思いがけなさに、電話の相手を思い出すまでに暫くかかってしまった。黒田といえば、前に工藤に付き纏っていた老舗ホテルの跡取り娘のボディーガードをしていた男だ。
「そうです、覚えていてくださったようで手間が省けました。ゆいのことでお話したいことがあるんですが、お時間いただけますか?」
親しげに“ゆい”と呼ぶ相手は、前に優生が家出騒ぎを起こしたときにも関わっており、その時には紫が橋渡しをしてしまったことを思い出す。その後、優生が工藤の元へ戻るに至った経緯は詳しく聞かされていないが、紫が知るかぎり、優生が黒田にコンタクトを取りたがったのは一時的な事情だったはずで、今も関係が続いていたとは知らなかった。
「……まさか、ゆいちゃんと一緒だったりするんですか?」
「そういうお話をしたいと思ってるんですが」
「でも、どうして俺に? 携帯も、どうやって調べたんですか?」
「ゆいからです。話すと長くなりそうですから、お会いするというわけにはいきませんか?」
もう二ヶ月近く所在の掴めない優生のことだと言われれば、今すぐ飛んでいきたいと思う。
とはいえ、相手の意図が全く見えない状態では、戸迷いも強かった。紫の認識では、黒田は規格外に大柄なだけでなく見るからに格闘系の鍛えられた分厚い体をしており、寡黙で、到底穏やかとは言い難い雰囲気を醸し出していた。
そのうえ、優生を手篭めにしかけたという前科もちで、物騒なことにはまるで縁のない紫が対等に渡り合えるはずがないことは一目瞭然だ。
少し考えてから、こちらのテリトリーの中なら不穏な事態に陥り難いだろうという結論に至った。
「……外で食事を済ませる予定だったんで、居酒屋でも構いませんか?」
「ええ、そちらに合わせます」
身支度と心の準備をするだけの余裕を考慮して、落ち合う時間と場所を提案した。



先に来ていた相手から視線をもらわなければ、すぐには気が付かないほど、黒田の印象は変わっていた。
ダークスーツにサングラスのイメージしかなかった黒田は、今日は淡いグレーのセーターにダウンジャケットといった軽装だ。前髪を上げて晒していた額も、今は軽く流しただけの髪で隠れている。むしろ穏やかといった方がいいほどの雰囲気に、スーツにトレンチコートで意気込んできた紫は、無用な心配をしていたかもしれないと思った。
「すみません、お仕事でしたか」
「いえ……休みだったんですけど……」
自分から居酒屋と言っておいて、きっちりネクタイまで締めてきた言い訳がすぐに出てこなかった。まさか、外見で圧倒されないようコンバットスーツ代わりに着てきたと白状するわけにもいかない。
とりあえず店内に入ると、黒田に尋ねもせずにカウンター席に決めた。親しくもない相手と向かい合って飲むのも、食事をするのも、仕事以外の場では遠慮したい。紫の希望に逆らわず、黒田は黙って隣に腰掛けた。
適当に注文を済ませると、意を決して黒田に向き直る。
「あの……ゆいちゃんを監禁してるとか、ないですよね?」
「当たり前です」
ホッとしかけた紫を、黒田は不機嫌そうに見つめた。
「ゆいの方から、愛人にして欲しいと言ってきたんですから」
「まさか……」
驚きのあまり、まじまじと見つめ返す紫に、黒田は軽く肩をすくめてみせる。まるで、被害者は自分の方だと言いたげな素振りだった。
優生が工藤の母親に交際を反対されて身を引いたということは聞いて知っていたが、間を置かずに他の男を口説いたとは、俄かには信じ難い。ましてや、相手は優生に狼藉を働こうとしたことがあるような男だ。
運ばれてきたビールを勧められた時、今日の状態ではすぐに酔いが回ってしまいかねないことを思い出した。
「すみません、ちょっと風邪気味なので」
一言断って、先に風邪薬を口にする。職業柄、朝と夜だけ飲めば済むタイプの薬を服用することが殆どだ。
黒田は何か思うところがあるような表情をしていたが、紫が飲み下すのを黙って見ていた。後は、睡魔に負けないよう気を張っておかなければと自分に言い聞かせる。
「……ゆいを口説いていたと聞きましたが?」
黒田の声の微妙なトーンに、紫が優生を口説いていたことを責められているのか、或いは今後を止められるのかと思った。
「それも、ゆいちゃんからですか?」
「そうです。危ない感じはしないとも言っていましたが」
釘を刺されているのか、世間話なのか未だに判断がつかない。優生はお互いに妥協したつき合いだと言っていたが、黒田の方はそうではないのかもしれなかった。
「俺ほど無害な男はいないと自負してますから」
「無害ですか……むしろ傍迷惑だと思いますが。どうして、ゆいに何もしなかったんですか?」
「どうしてって、ゆいちゃんは工藤の恋人っていうか、結婚したも同然だってわかってるのに何も出来ないですよ」
そんなことを尋ねられること自体が心外だと思っている紫は、黒田の言葉の前半を聞き流してしまっていた。
弁解じみた紫の返事に、黒田はしつこく問いを被せてくる。
「でも、中途半端に口説いていたんでしょう?」
「それは……万が一ということがあるかもしれないでしょ? まあ、結果から言えば俺の所には来てくれなくて、好きな男に似たタイプの人の所に行ったみたいですけど」
ささやかな嫌味を籠めた言葉にも、黒田は涼しげな表情を崩さなかった。
「ゆいは求められてもいないと言っていましたが? 本当に口説きたいと思っていたんですか?」
「できないでしょ、他の男にベタ惚れなの、わかってるのに」
「本当に手に入れたいとは思っていなかったんでしょう? 私はゆいのようなタイプは全く好みではないですが、あれだけ食われたそうにしていれば放っておけませんね」
「……って、食っちゃったんですか……」
「据え膳を食わぬタイプに見えますか?」
一度目が未遂だったからといって、黒田が安全圏なはずがないことはわかりきっていたが、それでも信じたくはなかった。
「黒田さんはともかく、ゆいちゃんが工藤以外の相手とそういうのって、ちょっと考えられないんですけど」
確かに、優生はプラトニックな関係ではムリだと言っていたが、まさか本当に一線を越えてしまうようなつき合いを他の誰かとするとは思っていなかった。
「一緒に住んでいたんですよ? 何もない方が普通じゃないと思いますが」
ショックのあまり言葉を失くす紫を見る黒田の視線がひどく不愉快だ。紫の考えが甘いことくらい、自分が一番わかっている。
「不潔、とか言われてしまいそうですね」
見透かしたような言葉にカッとなった。それが揶揄口調だったことも、紫の胸の奥の何かに引っかかる。
「ゆいちゃんに悪いと思わないのかよ? あんた、前にも泣かしたのに……」
「ですから、前の時は未遂で帰したんですよ。仏様でも三度しかないのに、煩悩に塗れた凡人がそう何度も見逃せるわけがないでしょう」
黒田の言い分の方が一般的なのだということくらいわかっていた。本当に優生が自分からこの男の元へ行ったのなら、ただ保護するだけにしておいて欲しかったと思う方が間違っている。
それでも、頭と気持ちは別物で、年齢に見合った大人らしく、自分を納得させることは出来そうになかった。
紫の気持ちを察したように早いペースで勧められるアルコールに、飲み過ぎだと思いながらも止められない。いつもより回りが遅いことも、紫を油断させていた。
「そろそろ出ましょうか?」
黒田の言葉に立ち上がろうとした時になって漸く、酔いが足に来ていることを知った。
ふらつく紫の腰に回された腕に驚いて身を引こうとしたが、情けないことに真っ直ぐに立つことも出来ない。一人ではまともに歩けそうにない紫を力強く支える腕に身が竦む。手を貸されることが不本意なのだと自分に言い聞かせながら、その筋肉質な腕を拒んだ。
「すみません、酔ってないつもりだったんですけど……飲み過ぎたみたいです」
頭はハッキリしているつもりなのに、思うように体に力が入らず、黒田の腕から抜け出すのは困難だった。
「そうですね。風邪薬とアルコールを同時に取るなんて利口な人のすることではありませんよ」
タクシーの中まで付き添ってくれた親切な知り合いにしか見えなかった黒田が、ちらりと悪意を覗かせる。
「え……?」
黒田はその答えをくれないまま、油断すると今にも崩れそうな紫の体を引き寄せた。




見知らぬ建物の前で、紫は黒田に抱きかかえられるようにしてタクシーを下りた。
自宅の住所を告げた覚えもないのだから仕方のないことだったが、何の説明もなく紫の腕を取って階段を昇ってゆく黒田が何を考えているのか見当もつかない。
「ここって、黒田さんの家ですか? どうして、俺まで……」
そこまで言ってから、優生がいるのかもしれないということに気が付いた。
「あ、もしかして、ゆいちゃんに会わせてくれるんですか?」
「想像以上におめでたい人ですね」
「え……」
意味を問うよりも早く、目的地に着いてしまったらしかった。
支えられた背中を促されるままにドアを入り、部屋へと上がる。玄関に置かれた小さめの靴に、やはり優生が中にいるのだと思った。
てっきりリビングで解放されると思い込んでいたが、黒田は紫の腰に回した腕を解くどころか、そのまま奥の部屋まで進んでいく。
「あ、あの、ゆいちゃんに来てもらった方が」
特別な事情でもない限り、他人の寝室に立ち入るのには抵抗があった。もし優生が寝ているのなら起こすのは悪いと思うが、同居人の黒田はともかく、紫が一緒に行くべきではないはずだ。
「ゆいは、もういませんよ」
「えっ」
「工藤さんにお返ししましたので」
「ウソ……じゃ、何、でっ……」
全く状況の読めない紫を軽くベッドへ放り出すと、黒田は至って真面目な顔で、信じられないことを言った。
「前の恋人がキス以上のことをさせてくれない人でしたので、あなたの話を聞いて興味が湧いたんですよ」
「えっ……」
紫の思い上がりでなければ、とんでもなく危険な立場に追い込まれたのではないだろうか。
「ゆいが、やらせないのは本当は男を知っているからじゃないかと言いましたので、真偽のほどを確かめさせていただこうかと」
「そういうのは、俺じゃなくて本人に確かめないと意味ないでしょう?」
「出来ないんですよ」
「何で」
「相手の海外赴任が決まって、遠距離になると思うと不安で、少し強引に求めたんですよ。そうしたらその場で破局して、それきり音信不通になってしまいました。こちらに非があるのは承知しているんですが、このままでは納得がいきませんので」
「それって、俺じゃなくて本人に言うことでしょ」
いくら海外に行ったといっても、電話くらい出来るはずだ。
「連絡のつけようがないんですよ。本人は怒って連絡先も教えてくれませんでしたし、会社に聞いても身内でもない私には答えてもらえませんし」
「だからって、何で俺?」
「あなたもメンタルな恋愛しかしないと聞きましたので、試してみたくなってしまいました」
言いながら、もう黒田の手は紫のジャケットのボタンを外して、シャツの裾を引き出そうとしている。
「な……そんな勝手なこと言われて、はいどうぞってわけにいかないでしょう」
抗う腕を軽く封じる相手との体格差と、場数の違いに冷たいものが背を走る。やみくもに抵抗する無意味さなど、試してみる前からわかりきっていた。
「やめてください」
逆撫でしないよう、意識して声を抑える。黒田の胸を押し返す手も、邪険にならないよう努めた。頭の中では、どうやって気を殺ぐかを必死に考えながら。
そんな葛藤を知ってか知らずか、黒田は強い腕で紫の頭を抱くようにして顔を上げさせた。塞がれた唇を無理に離すことは諦めて、不躾なキスを甘んじて受け入れる。
やや中性的な美人好きの紫としては、無骨な大男など願い下げだと思っていたが、心配していたほどの嫌悪感はなかった。それどころか、黒田のキスは蕩けるように気持ちが良くて、意図的にではなく、抵抗を忘れてしまっていた。
薄い生地を隔てただけの胸元を弄られていることに気付く頃には、紫の上着は床に落とされていて、その上にネクタイも乗っているような状態だった。まさかと思う間もなく、シャツの合わせは完全に開かれて、大きな掌が素肌に直に触れてくる。
もう、本当に後戻り出来ない瀬戸際にいるようだった。
いちかばちかと思いながら、相手の嫌がりそうな言葉を探す。
「黒田さん……俺、バージンなんで勘弁してください」
「では確かめさせていただきましょう」
面倒がられることを期待して告げた真実は逃げ口上に過ぎないと取られたらしく、黒田は呆れなかった代わりに驚きもせず、その言葉を実行に移し始めた。
「あっ……」
まるで自分がかよわい女の子になってしまったかのような錯覚を覚えるのは、黒田が苦もなく紫の抵抗を躱して肌へと口付けるからだ。いくら体格が違うといっても、紫は軽く平均身長を超えていて、細身といっても特別華奢なわけではないはずなのに。
「も、いい加減に人をからかうのはやめてください。俺がストイックだろうが淫乱だろうが、黒田さんに関係ないでしょう?」
「申し訳ないですが、その気になってしまいましたので今更やめられそうにありません。諦めて最後までつき合ってください。特定の相手がいるわけでもないようですし、これくらいで大騒ぎするような子供でもないでしょう?」
黒田の言うことはいちいち紫の気に障る。確かに、特に好きな相手がいるわけでもなければ、喚き立てるほど若くもないのも事実だった。
「は……っん……」
自分でも驚くような声が口をつく。産毛が逆立つような感覚も、自分ではコントロールできない反応も、紫をうろたえさせるばかりだった。
遠慮も躊躇いもない掌と唇が、30年近く思い込んできた紫の本質を否定する。抵抗できないのは体格のせいだとは言い訳できないような状態に紫を追い込み、その時に怯えて何も知らない中学生のように固まる体を煽った。
「括約筋を緩めるんですよ、力が入ったままじゃ、お互いに痛いだけですから」
「……言うのは、簡単なんだろうけど……こっちは、そんな余裕、ないっ……ん」
大きな掌が、萎えたままの紫の前をやんわりと包んで緩く上下へ擦る。露にさせられた先端に優しく爪を当てられて、甘く息が抜けてゆく。
「……ん、あっ……や」
ゆっくりと体を引き裂かれているのに、不思議ともう痛みは感じなくなっていた。他人の手の気持ち良さと、体を圧迫する異物感は絶妙にシンクロして、抵抗を忘れてしまう。グッと腰を引きよせられても、もう拒むことは出来ずに全てを許してしまっていた。




「まさか、本当に初物だとは思いませんでしたよ」
うつ伏せに横たわったまま、まだ鼓動を鎮めることもできない紫は、さも可笑しそうな黒田の言葉に追い討ちをかけられた。
ハッキリと口に出されると、何も言い返せなくなってしまう。酷い手段で身勝手な目的を達したにも拘らず、僅かの罪悪感も見せない相手が腹立たしい。しかも、紫のイメージを根底から覆すほどの饒舌ぶりだった。
隣で上半身を起こした黒田が、嫌がらせのように紫の背に人差し指を滑らせる。
「結構遊んでそうに見えましたが、よく今まで無事でしたね」
「……うるさい。人をヘバらせておいて、勝手なこと言うなよな」
もうビジネスライクを通す余裕はなく、紫は言葉を崩して言い返した。
「若く見えても、年には敵わないようですね」
「年って……あんたの方が上だろ?」
はっきりとした年齢は知らないが、どう見ても黒田の方が年上のはずで、紫より若いとは思えない。
「あなたは工藤さんと同じ年なんでしょう? 私の方が5年ほど若輩ですよ?」
「5年て……ウソ、あんた25歳?」
「そうですよ。なんだか、反応がゆいに似てますね」
嬉しそうに紫の髪やら頬を撫でる手が息苦しい。
優生の言い分が間違っていたようだと身を持って確かめて、黒田は納得したのだろうか。
「……5つも年下の奴にいいように扱われたなんて、一生の恥だよな」
わざとらしい紫のため息にも黒田は動じることはなさそうだった。使い捨てにされる自分が哀れだと、認めたくはないのに。
「どうやら、あなたはストイックなわけではなく、晩熟だったようですね」
「そんなこと言われても……淡白っていうか、したいと思ったことがなかったんだから、しょうがないだろ」
「おこがましいというか、厚かましいというか」
意味有りげな口調に、いちいち腹が立つ。自分でも、あったとは知らなかった欲望を引き摺り出したのは目の前の男で、決して元から持て余していたものではなかったのに。
「あんたがしつこく挑んでくるからだろ、俺、持久力ないのに……一晩で一年分くらい精力奪われた気がする」
「使わないと錆びてしまいますよ。持久力は追々つければいいでしょう」
「……余計なお世話だし」
本当は、連れ込んだ強引さからは想像できないほど、優しく扱われたことが何より紫を落ち込ませていた。せめて、相手が年上ならまだ救われたのだったが。
「少し美人過ぎるような気もしますが……まあ、贅沢な悩みだと思っておきましょう」
あまりにも身勝手な言い分に、怒りを通り越して呆れてしまう。そういえば、優生も妥協しているのはお互いさまなのだと言っていた。黒田の好みから、紫はかなり外れているのだろう。けれども、紫から誘ったわけでもないのに、好みではなかったなどというクレームは受け付けられない。
女の子に、綺麗だから並びたくないと言われたことはあるが、男からそんなことを言われたのは初めてだった。目の保養だとか、傍に置いておきたいと言われたことはあっても。
「後から文句言うくらいなら、最初から手を出さなきゃいいだろ」
肩を抱くように回されている腕を強引に外す。起き上がろうとする体が、またベッドへ沈められた。
「初めての相手をそんな無下にして構わないんですか?」
「無理矢理ヤっといてゴチャゴチャ言うなよな。悪態つくのはこっちだろ」
「本気で抵抗されたようには感じませんでしたが」
「あんたみたいなゴツイのに敵うわけないだろ、余計なケガはしたくないし」
「ドライなんですね。気が合いそうで良かったですよ」
「……なに言ってんの?」
紫にも、どうやら自分が勘違いをしていたようだとわかってきた。
「ゆいを返してしまったので、代わりが必要になったんです。妥当なところで手を打ちませんか?」
「ふざけんな。はいわかりましたなんて、言うわけないだろ」
「そうですか……それでは仕方ありませんね。やはり、ゆいを取り戻すしかないようです。あまりにも泣くので、可哀そうだと思って工藤さんにお返ししたんですが」
もしかしたら、最初から紫をキープすることが目的だったのかもしれないと、気付いたところで免れる方法などない。
「もしかして、俺、脅されてる?」
「そう取っていただいて差し支えませんが」
「……あんたって、ホント性格悪……」
敵わないのは体格だけでなく、口先の理論でも紫に勝ち目はなさそうだった。
憎まれ口を返しながら、強い態度を取れない理由に目を逸らす。
黒田の提案と渡されたスペアキーに、紫が通い妻を演じることになるのは、ほんの少し先のことになる。



- 仔猫でもないのにドメスティック - Fin

Novel       【 U 】    


☆ドメスティック(domestic)=飼いならされた、手懐けられた、という感じに思っていただければと。

黒田が優生とお別れした日、という設定で書いています。
れすきゅーをすっ飛ばして書きたい気持ちを抑え抑え今に至りました。
自分的には今一番旬なカプですvv
ぶっちゃけ、当分こればっか書きたいくらい、ハマってます。
黒×優生とか紫×優生派の方、本当にごめんなさい。