- Someone else like me(8) -



土曜の夕方にもかかわらず手ぶらで訪れた南央に、ドアの外まで迎えに出て来た俊明は怪訝な顔をする。
いくら身一つで来ても問題ないほど南央のものが揃えられているといっても、一通りの用意をしてくるのが常だった。
長居をするつもりはないと先に断っておくべきかどうか迷っていると、ふいに腕が引かれ、やや強引に家の中へと引き込まれた。
「ナナ?何かあったの?そんな思い詰めた顔をして」
南央はよほど当惑顔をしていたようで、俊明は心配げに南央の目を覗き込んできた。
ここへ来るまでずっと、どう切り出そうか悩んでいたが、この流れで言ってしまえばいいのだろう。
「……話したいことがあるんだけど、いい?」
「いいよ。座って聞こうか?」
俊明は、南央の悩みに自分が関与しているとは思わないのか、ひどく気遣わしげに南央の背に手のひらを当て、ソファへと誘導した。
心配げな眼差しを向けられると話し難くなるのだとは気付いてもらえず、南央は小さく息を吐いて、覚悟を決める。
「……俊さん、大きな病院の跡取りなんでしょう?」
南央の問いに俊明は驚いたようだったが、答えに詰まるというようなことはなかった。
「大きいというほどでもないよ、個人病院だし。それに、僕は医者じゃないから跡は継がないよ」
「お医者さんじゃなくても、経営に携わったりとか、するんでしょう?」
「先のことは断定できないけど、たぶん関わらないと思うよ。僕には弟もいるし、一度免除されているからね」
「どうして、病院のこと黙ってたの?」
「別に隠していたわけじゃないよ、わざわざ話すようなことでもないだろう?僕は独立して自分の収入で生活をしているんだから、実家がどうでも関係ない」
俊明があまりにも“正論だ”という顔をして言い切るから、無性に腹が立った。意図的に教えていなかったのなら、隠していたのと一緒ではないのか。
「……知ってたら、口説かなかったのに」
しつこく口説いておいて言う台詞ではないが、それは本音だった。
出逢った頃は何とか俊明と“お近付き”になりたくて、まさか気安く口説いていい相手ではないかもしれないとは考えもつかず、必死に食い下がってしまった。
あの日、俊明のことを何も知らないのにそんなことを言っても大丈夫かと念を押されても、騙されても悔いはないと答えたのは南央だったのに、恨み言を言わずにはいられなかった。



隣合わせて座る二人の間には、相変わらず触れ合わない距離が置かれている。
俊明は考え込むような素振りのあとで、ゆっくりと言葉を選びながら南央に向き直った。
「ひょっとして、医療事故でもあったのかな?僕の知る限りでは、トラブルは父の女性関係以外は聞いたことがないんだけど」
「そういうんじゃなくて。俺は男だし、親は離婚してるし、そのうち秘書か何かが俺のことを調べて、つり合わないから別れろとか言いに来るんでしょう?」
最初に援交紛いのことを仕掛けてしまっただけに、南央がそういうことを常習的に行っていたとか、お金目当てだとかいう風に思われても、弁解するのは難しい。
「すごい想像力だね。それに、とんでもない偏見だ」
「自分の立場を弁えてるだけだよ。それに、俺はそういう格式のある家とか苦手だし」
「格式なんてないよ。ごく普通の外科医の家庭だよ」
それがもう普通ではないと、級友たちから俊明の実家の凄さを教えられたばかりの南央からすれば、“医者”イコール“セレブ”という図式が出来上がってしまった。
対照的に、南央の家庭はあまりにも庶民的だというのに。
不倫の代償は当人たちだけでなく、本来なら被害者のはずの南央にも重く圧し掛かっている。慰謝料と養育費は実母と姉妹に流れ、父と義母と南央の生活は慎ましい。
それでも、公立校に通っていればあまり気にならなかったのだろうが、まだ両親が離婚する前に実母に入れられた私立校の生徒は殆どが裕福な家庭の子供たちで、南央は少し卑屈になってしまっている。
別段、学校で表立ったいじめを受けているというようなことはないが、落差は何気ない会話の端々からも窺えるような気がして、つい劣等感を感じてしまう。
「……“普通”のレベルが違うんじゃない?俊さんちって、すごくお金持ちみたいだし」
今にして思えば南央が鈍過ぎたのだろうが、俊明とは住む世界が違うと感じたことはなかった。多少金銭感覚が緩くても、俊明は大人の男で、慰謝料や養育費まで払っていたとは知らずにいたから、独身ゆえの余裕があるのだろうと思っていた。
「父はそれなりに収入もあるんだろうけど、僕は独立しているんだから関係ないよ。僕はごく普通のサラリーマンだからね」
「……そんなこと言って、大きな病院とか製薬会社とかから縁談が来たりするんでしょう?俺みたいな毛並みの悪い子供を相手にする必要はなかったんだよね」
俊明はひどく驚いたようで、見たこともないほど表情を厳しくさせた。
「ナナは被害妄想が過ぎるよ。僕の親は家柄や生い立ちで僕の好きな人を否定するようなことは絶対しないし、僕もそんなことを気にしながら恋愛することはないよ。偏見を持っているのはナナの方じゃないのかな?」
そこまで言われても、以前と同じ気持ちで俊明を見ることはできず、その言葉を素直に信じることはできなかった。



「……もう、いいよ。どうせ、俺じゃ身代わりにもなれないんだし」
そんなことを言うつもりではなかったのに、投げやりな言葉が口をついた。
「ナナ、何の話をしてるの」
「ごめんなさい。しつこく口説いたの俺なのに、こんなことを言うのは間違ってるよね」
軽いつき合いでいいと言ったのは南央で、前の相手を忘れるまで待つと詰め寄ったのだから、今になって責めるのは筋違いだ。
「ナナ?僕はナナを誰かの代わりにしようと思ったことはないよ?」
肩に伸ばされた手を、反射的に避けた。
あの日、なりふり構わず口説く自分をみっともないとは思わなかった。俊明が南央を、たとえ本気でなくても恋愛対象として扱ってくれたら、身代わりでも何でも構わなかった。
いざって動いたせいで、デニムの後ろポケットから落ちそうになった財布を直そうと手をやったとき、大事なことを思い出した。
「俊さんには、これぐらい何でもないんだろうけど……」
もう返せる機会は今しかなく、あの日からずっと財布に入れたままにしていた5万を抜いてテーブルに置く。
「……ナナ、これをどうやって?まさか、また」
ウリをしたのではないかと疑われていると気付いて、ため息が出そうになる。結局、俊明の評価はそこに終始しているのかもしれない。
「違うから。お義母さんに貰った、ちゃんとしたお金だから。ずっと、返さなきゃって思ってたんだけど、遅くなってごめんなさい」
「ナナ?」
もうお説教を聞くのは嫌で、小さく首を振った。
衣類や洗面道具を揃えて貰ったこと、食事をご馳走になったこと、細かなことを言えばコンビニでの支払いに至るまで、俊明に作った借りは何ひとつ返していないが、どうせ南央が気にするほど俊明は何も感じていないのだろう。俊明にとっては大した額でなく、特別なことでもなく。
「まさか、別れるつもりじゃないだろうね?」
それ以外あるわけないと、言ってしまえない南央の肩を掴む手は痛いほどに力を籠めて、簡単には振り払えそうになかった。
俯く南央の顎へと伸ばされた手が、見られたくない表情を晒させようとする。
「ナナ?」
見つめ返すことはできず、逃れることもできずに、視線を伏せた。
「僕を好きになってくれたわけじゃなかったということかな?」
静かな怒りの滲む声が、南央に何も言えなくさせる。
なるべく好きにならないよう、感情をセーブさせるようなすげない態度を取っていたのは俊明の方だったのに。



「責任を取る約束だったね?」
緊迫した空気が、身じろぐことさえ躊躇わせる。
「それは、本気になったらっていう約束でしょう?」
そもそも、まともにつき合う気がないのならそんな約束をしないでくれれば良かったのにと、まだ南央は状況の危うさに気付かずにいた。
南央の肩を掴んでいた手が背に回され、俊明の腕の中に包み込むように抱きよせられる。この期に及んで、一気に距離を詰めようとする俊明の意図がわからず固まった。
「僕は本気だよ。本気じゃない恋愛なんて、したことないしね」
いつも穏やかな俊明の、いつになく強引な気配が怖くなって身を捩ると、一層強く抱きしめられる。
「……え」
そのままソファへと倒され、俊明の体に敷き込まれたような体勢が意味することに思い当たって愕然とした。
「いや」
思わず口走った言葉に、俊明が眉を顰める。
本能的に逃れようとした南央の、押さえ付けられた手首がビクともしないほどの、大人の男の力強さに怯えた。
「卒業するまでは我慢しているつもりだったけど、そんな悠長なことを言ってる間に逃げられてしまったら意味がないね」
自嘲するような笑みの浮かぶ唇が、南央に何も言わせなくさせる。
箍が外れるといけないからキスもしないと言っていたのは嘘だったのかと思うほど簡単に、俊明は今まで微塵も見せたことのない欲情を露にした。
弱々しく首を振る南央の頬を挟むように置かれた腕は檻のように威圧的で、覆うように重ねられた唇はひどく性急だった。
濡れた舌先が、咄嗟に閉ざした唇をなぞり、僅かな隙間から内側へと滑り込む。
自分のものではない舌の感触は想像以上に生々しく、戸惑う南央の口内を隈なく舐め、舌に絡み、捕まえる。
今の俊明には南央を思いやる余裕もないのか、甘く吸いつく舌は貪り尽くそうとするように執拗で、上手く対応できない南央の呼吸まで奪うようにキスが深まってゆく。
息苦しさに、頭の芯が鈍く霞んだ。
「っ……は」
酸素を求めて唇を離そうと思うのに、麻痺したように南央の自由にはならない。 溺れそうな不安に、俊明の背中にしがみついた。
「ん、う」
入り混じった唾液が口角から零れ、顎へ伝う。それを追うように舌が這い、唇が喉へ下ってゆく。
「ひゃぁ」
背を走る、覚えのない感覚に声を上げた。
反らした胸の先を、服の上から探り当てた指に摘まれ、爪先を立てられると、強過ぎる刺激が体の芯を突き抜ける。
「いや……何、で……っ」
自分の身に起きていることに頭がついていかず、わけのわからぬ不安に涙が溢れた。
涙声にハッとしたように、俊明が南央の首筋から顔を上げる。



こめかみへと流れる涙を拭い、乱れた髪を払う。
そうしてから南央の頬を包んだ俊明の手は不躾に、まるで無害さを装うことをやめてしまったみたいに色事めいた仕草で南央に触れてきた。
親指の腹で下唇を撫で、輪郭を割って中へ入ろうとする。
「……キスも、したことなかったの?」
否定的な問いかけに、南央は涙の滲む目で恨みがましく見つめ返しながら頷いた。
苦しげな表情をする俊明は、情欲と倫理観のどちらを優先するべきか迷っているのだろうか。
「だから、待ってくれてたんじゃなかったの?」
「そうじゃないよ。僕のものになると思っていたから、待っていられたんだ。逃げる気だと知っていたら、もっと早く全て奪っていたよ」
「やだ、そんな言い方……」
南央の知る俊明はそんな低俗で身勝手なことを冗談でも言うはずがなく、こんな風に理性を飛ばしてしまっていること自体、考えられないことだった。
「それなら、他に何できみを縛ればいい?監禁でもする?そんなことをして警察沙汰にでもなれば二度と会えなくなるかもしれないのに?」
「でも、高校生になるまでダメって言ってたの、俊さんなのに」
少しは先に進みたいと南央が焦れても、頑なに“お預け”を貫いてきたのは俊明なのに、南央が諦めようとした途端、“全て”と言われても困惑してしまう。
「高校生になるまでって、まさか、ナナは中学生ってこと?」
呆然と南央を見下ろす眼差しが、動揺で見開かれる。
「そうだよ?」
何を今更、と訝る南央に、俊明は愕然としたようだった。
「でも、授業料って……ああ、そうか、晴嵐は私立だったね。ナナはしっかりしているから、まさか中学生とは思いもしなかったよ」
「じゃ、俺のこと、高校生だと思ってたの?」
「そう思い込んでいたよ。一応、確認しておくけど、ナナは今14歳?」
「うん」
「参ったな……ナナが高校生でも犯罪だと思ってたのに、中学生じゃ、僕は凶悪犯だね」
神妙な顔をして、俊明は南央の上から体を退かせた。
ややあって、南央に手を貸して体を起こさせ、いつも以上の距離を取って隣へ腰掛ける。どうやら、“やる気”はすっかり殺がれてしまったようで、俊明は考え込むように両手を額の前に組んで黙り込んだ。



「……しないの?」
聞くまでもないと思いながら、一応尋ねてみる。
俊明は、顔を上げないままで首を振った。
「さすがに義務教育も終わっていない子に“淫行”を働くわけにはいかないよ」
「ふうん」
中学生だろうが高校生だろうが、“つば”を付けておかなければ逃げられるという危険性は同じではないのだろうか。
深く息を吐いて、居ずまいを正し、乱れたシャツの裾を整え、伸びかけた長めの髪をかきあげる。
気を落ち着けようと南央がしたことは俊明の気を逆撫でしてしまったようで、また空気が緊迫感を帯びてゆく。
「まさか、しないなら別れるというつもりじゃないだろうね?」
ついさっき、他に繋ぎ留める方法がないような言い方をしたくせに、中学生だとわかった途端にあっけなく翻す心理がわからない。
答えない南央に、俊明は心底困ったような顔をする。
「ナナ?僕がきみにこれ以上のことをしないのは、“したくない”からじゃなくて、“してはいけない”気がするからだよ?」
言い訳がましいと思う反面、これまでの俊明の倫理観を考えれば仕方のないことだとも思う。南央の年齢を実際より3歳も年上だと思っていてさえ、卒業するまでは何もできないと思っていたような男が、もっとずっと幼いと知って、先に進めるはずがなかった。
頭の片隅で、やっぱり南央の最初の男は幼馴染みになってしまうのかもしれないと、予知めいた考えが過る。
気が殺がれたのは南央も同じで、もう何が何でも今すぐ別れなくては、みたいな強迫観念は薄れていた。
「……どっちでもいいよ。どうせ、そのうち俊さんは女医さんとか、取引先の社長令嬢とかに気に入られて結婚するんだろうし」
「その決定事項みたいな言い方は何なのかな?僕にはバツが二つもついてるのに、もう縁談なんて来ないよ」
俊明は本気でそう思っているようだったが、級友に聞いた話や南央個人の印象から考えても、とても同意する気にはなれなかった。
「そんなことないでしょう?俊さんはまだ若いし、家柄もいいし……跡継ぎだって要るんだろうし、放っておいてくれるとは思えないよ」
良くも悪くも、いつまでも“自由”でいられるような立場ではないはずだ。



「僕にはもう子供がいるよ」
意を決したように話す俊明に、それらしいことは聞いて知っているとは言えず、微妙な顔をすることしかできなかった。
「ごめん。話してなかったけど、僕の幼い弟というのは、戸籍上は僕の嫡出子ということになってるんだ。最初に離婚してから半年と経たないうちに、奥さんだった人の妊娠が発覚してね。もう一度籍を入れて認知もしたんだけど、実は僕の子供じゃなくて、僕の父の子供だったんだよ。それがわかったとき母と相談して、認知は取り消さずに父の養子という形を取ったから、戸籍上も遺伝的にも、僕の弟なんだ。だから、もう跡継ぎはいるから、そんな心配はいらないよ」
告げられた言葉の重大さに、すぐには対応できなかった。本当に、俊明は大事なことを何も、南央に教えてくれていなかったのではないだろうか。
言葉にしなくても、責める気持ちが面に出てしまっていたのか、俊明はバツが悪そうな顔をする。
「黙っていて悪かったよ。でも、ナナが最初に僕のことを何も知らなくても構わないみたいな言い方をしていたから、敢えて不利なことを話す勇気が出なくてね」
確かに、騙されてもいいとまで言ったのは南央で、今になって責められた立場ではないのだったが。
「……俺も、助けて貰ったの運命みたいに思い込んで、勝手に盛り上がっちゃってたかも。最初はホントに、つき合ってくれるだけでいいって思ってたんだ。なのに、いつの間にか欲が出てきて……」
俯きかけた南央の頬へ、俊明の手が躊躇いがちに伸びてくる。もう無害とは言えないが、慈しむような優しさで南央を包み込む。
「僕は最初から軽い気持ちじゃなかったよ。ナナに出逢う前にいろいろあって恋愛するのは億劫になっていたし、ナナみたいに若い子が相手だと慎重にならざるを得なくてね。好きになるほど、自重しなくてはいけないと自分を諫めるのに骨が折れたよ」
「うそ……そんな感じ、全然……いつも、俺には興味ないみたいな顔して」
それこそ、真剣に俊明のことを“不能”なのではないかと心配してしまうくらいに。
「だから、なるべく感情を抑えるようにしていたんだよ。それでも、我慢できなくてナナを帰さなかったこともあっただろう?」
「でも……結局、一緒に寝るだけで何もしなかったし、したそうな感じでもなかったし」
だから、南央では無理なのだといじけてしまっていたのに。
「寝ている間に抱きしめていたこともあったよ。さすがに意識のないときまで自戒することはできなかったみたいでね。だから、理性を飛ばさないよう、“溜めない”ことにしているよ」
意味有りげな最後の言葉を正しく解読することはできなかったが、俊明にとっての南央も、全くの“無害”ではなかったようだと知って、少し報われたような気がした。



「俺、俊さんに好かれてると思っていいのかな?」
まだ確信が持てずに尋ねる南央に、俊明は少し大げさなくらいに熱っぽく答えを返してくる。
「好きだよ。僕はとっくにナナを好きになっていたよ」
そう言いながら、俊明はもう南央を抱きしめてくれそうにはなかった。
「……でも、何もしないの?」
「忍耐力が持つ限りは、そのつもりだけど」
そうして南央が無事に卒業すれば、ゴールは更に先送りにされるのだろうか。
「卒業したら、また3年、先に延ばすの?」
「あと1年9ヶ月が我慢できそうにないのに、その先3年も延ばせるかな……」
苦笑しながらも俊明の表情はどこか余裕を感じさせて、口で言うほど難しいことではないのだろうと思った。
きっと、“忍耐力”は俊明ではなく、南央の限界を指しているのだろう。南央が現状に甘んじていられれば、つき合いは続いてゆく。
「ナナはまだ別れようと思ってるのかな?」
「俺の忍耐力が持たなかったら、そうなるのかも」
「だめだよ、“やっぱり嫌”は聞かないと言ってあったはずだからね」
当然のように却下されて初めて、その重大さに気付かされた。
「……それって、俺の意思では別れられないってこと?」
「そうだよ。“責任”を取る約束だったね?」
「責任って、そういう意味だったの……?」
“本気”の恋愛をしていても、その先に別れが待っていることだってあるはずなのに、南央からの別れは聞き入れないという傲慢さに眩暈がする。
「確認は取ったはずだよ?僕はもう、好きな人を手放すつもりはないからね」
否と言わせない強気に日頃とのギャップが相まって、反論する無意味さを思い知らされる。
南央が“最初の”相手に選んだ男は、“最後の”相手にもなるつもりらしい。
「……じゃ、俺も言っとくけど、最初の期限を越えたら知らないからね?」
約束は俊明とだけ交わしたものではなく、変更がきかないというなら、南央の友人もそれに倣うと言うだろう。
「そこまで持つかどうかも怪しいけどね」
自嘲気味に吐き出される言葉が本音ならいいと思いながら、南央は結論を出すのはもう少し先に送ることにした。



- Someone else like me(8) - Fin

【 Someone else like me(7) 】     Novel  


“清い交際”について、ぶっちゃけ南央の方が正しいのでは?と、何度も揺らぎそうになりました。
読んでくださった方は、俊明のことをどう思われたでしょうか?
『ヘタレだ』それとも、『大人として当然だ』?
もしご意見があれば教えてください。今後の方向性の参考にさせていただきたいと思います。