- 時差 -



「え、義くん、誕生日7月だったの?」
出逢って3ヶ月余り。今更な里桜の問いに、義之は覚悟を決めた。もしかしたら鈍い里桜は気付かないままかもしれないと思っていたが、やはりムリだったらしい。
「そうだよ」
平静を装って肯定する義之の胸元を掴みそうな勢いで、里桜の抗議が始まった。
「どうして?7月って知り合ってたでしょ、何日?」
今まで聞かなかった里桜にも非があると思うのだが、責めるような視線が義之を見上げる。その時にはとても言い出せるような状況ではなかったのだったが、できればそれも口にしたくなかった。
「ねえ」
詰問口調に、ごまかすことは諦めた。どうせ、調べようと思えばいくらでも方法はあるのだから。
「15日だよ」
義之が里桜を手に入れて何日と経たないうちに誕生日を迎えたことを言い出せないまま、あっという間に3ヶ月が過ぎてしまっていた。
その頃の話になると、里桜がやっと忘れたことをまた思い出してしまうのではないかと心配で。
「15日って、一緒に住んでたよね?何で言ってくれなかったの?」
「言いそびれたんだよ」
「13歳違いだって言ってたくせに、14歳も違うんじゃないか」
まるで騙されていたかのような言い方に、つい言い訳がましい気になってしまう。
「里桜と知り合った時、僕は28歳だったんだよ。それに、13歳違いだって言ったのは僕じゃないよ?」
その時にはまだ13歳違いだったのだから、敢えてもうすぐ14歳違いになるとは言わなかっただけだった。


「なんか、騙された気がする……」
納得のいかなさそうな里桜に、ちょっと意地悪く尋ねてみる。
「里桜の上限は13歳上までなのかな?」
「そんなこと、ないけど」
不満げな恋人が、上目遣いに義之を見上げる。
「だって、出逢って初めての誕生日なのに、おめでとうも言ってないんだよ?」
義之の心配とは全く違った所に腹を立てていたらしい。ホッとするのと同時に、素直に嬉しいと思った。
「もう、おめでたいって年齢でもないからね」
「それに何もあげてないし」
「僕はもうもらってると思ってるよ」
訝しげに首を傾げる里桜がかわいくて、そっと両手で頬を包んだ。思い出せない、といった風に義之を見る。
「俺、何かあげたっけ?」
「何かじゃなくて、全部だろう?」
相変わらず鈍い恋人は、ますます難しい顔をして真剣に考え込み始めた。もしかしたら、そんなに神経質になる必要はなかったのかもしれない。
「君がずっと僕の傍にいてくれたら他には何もいらないよ」
耳まで真っ赤に染めた里桜が、義之の胸元へ顔を隠すように埋める。鈍い里桜にもようやく義之の言いたいことが伝わったらしかった。



- 時差 - Fin

Novel

学年で言えば13年違いなので、13歳違いですよね?
ちょっと不安になったりしてしまいます……。
まあ、バカップルなこの人たちは幾つ違ってようが全く関係ないと思うのですが。
本編に入れるかクラップ用にするか迷ったエピソードのひとつでした。