- Honey×Honey -



「ねえねえ」
ソファに横たわる優生の、傍に腰掛ける里桜の声が甘えるように近付く。
目だけを上げて先を促すのは、なるべく余計な体力を使わないようにしたいからだった。淳史が戻るまでに、少しでも回復しておきたい。 
「ゆいさん、俺の、見たよね?」
何を、としらばっくれようもなく、里桜の言いたいことはすぐにわかってしまった。里桜を脱がせて“試させて”と言ったのはつい昨日のことだ。
「見たっていうほどでもないよ?見えた、くらいかな?」
里桜に抵抗されないうちにコトに至ろうと気が急いていたから、本当に一瞥しただけで観察するような余裕はなかった。
「俺だけ見られたのって、ズルいよね?」
優生の返事を軽く流す里桜の言い分は、平たく言えば“見せろ”ということらしい。
窺うように優生の顔を覗き込みながら、里桜が体を近付けてくる。腰の辺りへと伸びてくる手は遠慮がちで、優生の同意を得られるのを待っているかのようだった。
「だから、見せて?」
有無を言わさぬ可愛らしさでおねだりされてしまうと、うっかり負けてしまいそうになる。
「いいけど……俺、見ただけじゃなくて、触ったし、舐めたよな?」
挑発するように見上げると、途端に里桜の先までの勢いは鳴りをひそめ、優生へと伸びかけていた手で赤く染まってゆく頬を押えた。
「やだ、思い出しちゃった……」
未だに、里桜がスレているのか純情なのか優生には判断がつかないが、案外、ただ単に好奇心が旺盛なだけなのかもしれない。少し強引に里桜の腕を引いて、瞳を見つめてみる。
「俺だけズルイって言うんなら、同じことする?」
「……ゆいさんのいけず」
俯いてゆく里桜の頭の中は凄いことになっているらしく、真っ赤になりながら優生の手を逃れた。優生が体を起こさなければ届かないくらいの距離を取る。
暫く優生の傍に近付きたがらないのではないかと思ったのは一瞬で、すぐに里桜はもう一度身を寄せてきた。切り替えは相当に早い方らしい。
「ねえ、ゆいさん?じゃ、今度一緒にお風呂入るっていうのは?」
「いいよ?淳史さんと義之さんのお許しが出たらね」
「そんなの、絶対ダメって言われるに決まってるし……」
里桜が優生に求めているものが何なのかわからないまま、さっき解かれた腕をもう一度掴む。
「それなら、お互いの“ご主人”が戻るまで抱き枕になって癒し合うっていうのはどう?服の上から“当たる”のは仕方ないと思うけど?」
「じゃ、添い寝するー」
すぐに、里桜の体が優生の腕を枕にするように倒れてきた。優生に触らないよう、淳史にきつく言われていることなど、里桜の頭からすっかり抜け落ちているようだ。尤も、同様のことを、優生も義之に言われているのだったが。
ソファに置いたままの毛布の下で、仔猫たちが親睦を深めていることが“ご主人”たちにバレるのはもう少し先のことになる。



- Honey×Honey - Fin

Novel  



『Not Still Over』のエピソードのひとつと思っていただければ、と。
本編が息苦しいので、こちらは軽めにしてみました。

(2008.3.12.update)