- 甘々注意報 -



「……何だ?」
おそるおそる淳史の前に置いた味噌汁の正体を尋ねられて、優生は何と答えるか迷った。
淳史の前の席に腰掛けながら、推測を口にする。
「たぶん、茄子のせいだと思うんだけど……ちょっと煮過ぎたのかも」
紫色の怪しげな味噌汁は、お世辞にもあまり美味しそうには見えなかった。優生の予想では、茄子としめじと油揚げの、ごくオーソドックスな一品になるはずだったのに、なぜか得体の知れない物体に成り果てていた。
「食えないものを出してるわけじゃないんだろう?」
フォローになっていないその言葉も、きっとやさしさなのだと思う。
無骨な手が椀を持ち上げて、怪しげな代物に口をつける。一応、優生も味見はしていたが、淳史の感想を聞くのが怖かった。
「なんだ、意外と普通だな。もっと凄い味がするのかと思ったんだが」
ある意味、期待を裏切ってしまったのかもしれない。
「ごめんなさい」
「食えりゃいいんだから気にするな。大体、おまえがそういう顔をするから変なものを出されたのかと思ったんだろうが」
「ごめんなさい、なんか、箸をつけるのに勇気がいるだろうなあと思って……」
「それなら、見た目より美味いって言って出せよ」
「う、ん」
とてもじゃないが、そんなことを言う勇気もない。なにしろ、優生は料理はまだまだ初心者で、本来なら他人に出せるような腕は持っていないのだから。
前の恋人と別れることになった時、行き先に困った優生を淳史の部屋に置いてもらう条件のひとつとしてハウスキーパーのようなことを始めた。経済的にも面倒を見てもらっているような今の状態では、仕事と言った方が差し支えないかもしれない。
「もっと自信を持っていいぞ?」
気に病む優生の頭を、淳史の大きな手が撫でた。まるっきり子供扱いなのも仕方がない。なにしろ、優生は淳史より一回り近くも年下なのだから。
「……うん」
ここにいたいと優生が思ったのは、結局こういうことなのかもしれない。
淳史の恋愛の対象になるのは無理でも、傍にいてくれるだけで幸せな気持ちになれる。
もしかしたら、条件のもう一つが必要なのは優生の方かもしれないと思った。



- 甘々注意報 - Fin

Novel  


実は“甘々注意報”というのはタイトルではなく、注意書きのつもりだったのですが、
知らないうちにタイトルになってしまっていました……。
初めて携帯から(ブログに)投稿したので、仕組みがよく理解できていなかったせいです。
自戒の意味を籠めて敢えてそのままにしておきます。