- Bittersweet Honey.8 -



「もし俺が義之のように、おまえを忘れたらどうする?」
寝物語にしてはあまりにもシビアな話題を振る淳史に、優生はその腕の中で身じろいだ。
義之が転落事故で記憶を失くしたことは、淳史や優生にとってもひどく衝撃的なことだった。あれほど思い入れていたはずの里桜の存在まですっかり忘れてしまっていることが、信じ難く恐ろしい。
「別に……どうしようもないでしょ」
もし淳史が優生を知らない頃に遡ってしまったら、義之とは比べものにならないほど強く、何年後かの事実を否定するだろう。出逢った頃の淳史を思い出してみても、10歳以上も年下の貧相な男と自分が恋愛していたなんて認めるはずがなかった。
「おまえな……確かに、自分でもそう簡単には信じないだろうという気はするが、一緒に住んでいて養子縁組までしてるんだぞ?説得する努力くらいしろよ?」
「……うん」
おそらく何の悪あがきもすることなく諦めてしまうだろうと目に見えているのに、優生は取り敢えず頷いておいた。
途端に、背を抱く手にきつく腰を引き寄せられ、息苦しいほどにその熱い胸へと押し付けられる。
「その気もないくせに気安く頷くのは悪い癖だな」
「だって」
もしもの話に律儀に答える無意味さと、結果、機嫌を損ねるとわかりきっている事態を回避したいだけなのに。
「あ……っ」
パジャマの上着の裾を引き上げた手が、背骨を伝って下着の中まで滑り下りてゆく。
「ん」
窪みに沿うように忍んでくる指に息が止まる。吐息を奪うように塞がれた唇は深く合わされ、絡んだ舌と舌の狭間で唾液が混ざり合う。キスに没頭しようと思うと、優生の中を穿つ指に乱される。
「……ぁん」
そのくせ、緩い刺激しかくれない淳史に焦れて、堪らず腰を押し付けた。はしたないと思われるとわかっていても、欲しい気持ちは止められない。
「いや……ちゃんと、入れて?」
潤む目で見上げると、淳史は少し苦しげに眉を寄せた。
「そんな風にねだられたら、記憶が無くても欲情しないわけがないだろうな」
その言葉を裏付けるように、硬く張り詰めたものが触れる。膝を掬われて、何度か入り口を擦られるのがもどかしくて待ちきれない。
「も、意地悪しないで?」
腰を揺らして催促する優生を躱して、淳史は話を優先させた。
「もし俺がおまえを忘れたら寝込みを襲いに来い」
「な……そんなこと、できるわけないでしょ?俺の人間性を疑われるだけだよ」
「そんなことはないと思うが。おまえにセマられて反応しないわけがないからな」
素直に喜んでいいものかどうかは微妙だったが、確かに証明の手段のひとつにはなるのかもしれない。
「……じゃ、病室のベッドで押し倒してみるね?」
「記憶喪失じゃなくても、されてみたいもんだな」
そんなことを言いつつ、日頃の淳史は、優生が積極的になるのをあまり歓迎していないようにしか思えないのだったが。
「俺は今すぐ襲いたいんだけど?」
優生が行動を起こしても構わないなら、お預けを食らっている現状を何とかしたい。
「今はいいから、たまにはおまえから誘え」
「ん……あっ、ぁん」
漸く与えられた充足感に溺れて、淳史の言葉の後半が耳を素通りしてしまったことには気付かないまま。
優生が淳史を押し倒すなど、まだまだ先のことになりそうだった。



- Bittersweet Honey.8 - Fin

Novel    



当たり前のことですが、病室でいたしてはいけません。
そういうおバカさんが本当にいるので、職員が困ってしまいます。
あくまで創作とかAVの中だけのことと思いましょう。

2008.6.25.update