- Bittersweet Honey.7 -



「そんなに短く切ったのか……」
“ただいま”よりも先にかけられた淳史の言葉が不機嫌そうに響く。
今朝までは肩に届くほど長かった優生の髪を惜しむように、淳史の指が短くなった毛先に触れた。指にかからずに滑り落ちてゆく髪を目で追う淳史の、落胆したような表情に途方に暮れそうになる。
「短くって言っても、淳史さんと出逢った頃もこのくらいだったでしょ?」
「そう言えばそうだが……伸ばしてるんじゃなかったのか?」
「ううん、行きそびれてただけだよ」
ずいぶん長い間ハサミを入れていなかった優生の髪は、傍から見ても鬱陶しいのではないかと心配になるほど長くなっていた。それに、色素の薄い、細い猫毛は伸びるほどに緩いウェーブがかかったようになってしまい、ますます優生の性別をわからなくさせるようで苦手だった。
「揃えてくる程度だと思ってたんだが」
「だって、見た目にも暑苦しかったでしょ?」
「そんなことはない、綺麗だった」
面と向かって綺麗だったと言われて、鼓動が大きく跳ね上がった。言葉のアヤのようなものだとわかっているのに、頬が熱くなってゆくのを止められない。
瞳を伏せると、淳史が身を屈めて唇を近付けてくる。やっと、“ただいま”のキスに辿り着いた。
抱きしめられて、髪を撫でられると、じわじわと後悔が胸に溢れてくる。切らなければよかった。淳史が長い髪が好きだなんて知らなかった。
「……長い方がいい?」
「そうだな、短くても綺麗だと思うが」
俯いたままの優生を慰めるように、淳史の声が優しくなる。フォローを催促してしまったようだと気付いて泣きそうになった。
「……伸ばそうかな」
「その方がいいな、切るのは勿体無い」
そういえば、美容師にも“本当に切るんですか”と何度も確認されたような気がする。特に髪に思い入れなどない優生は、惜し気もなく頷いてしまった。あの時、説得するような言葉をちゃんと聞いていたら、短く切らなかったかもしれないのに。
「すぐに伸びるから待って」
「そうだな、今度は切るなよ?」
「うん」
そんなことまで口出しされるのは横暴だと思っていたのに。指図されたがる自分はおかしいと思うのに。なぜか嬉しがる自分を止められなかった。



- Bittersweet Honey.7 - Fin ( H19.6.18.up )

Novel


実は、リアルでは男性の長髪は大キライだったりします。
長髪がどんなに似合ってても、短い方が好き。
でも、優生は中性的なので、まあいいかなーと。
そろそろ、淳史に横暴だけど超優しい攻めになってもらいたいですv