- Bittersweet Honey.6 -


「起きるの?」
少し掠れた声が不安げに背中を呼び止めた。
静かにベッドを抜け出したつもりだったが、気配で優生を起こしてしまったらしい。
「風呂に入ってなかったからな。起きたんなら一緒に行くか?」
「……そうしようかな」
珍しく素直に答えた優生が、腕をついて体を起こしかけたまま固まった。
「どうした?」
「なんか……力が入らなくて」
戸惑ったような声は、自分の不甲斐なさに驚いているのだろう。
「しょうがないな」
助け起こそうとした腕を途中で止める。
「先に湯を張ってくるから、ちょっと待ってろ」
優生を残して風呂場へ行き、先に体を流す。夕方風呂に入っているはずの優生と違って、淳史はほぼ一日ぶりの入浴だった。
あまり長く待たせると心細くさせると思い、なるべく手短にすませて優生を迎えに行く。
「優生?」
「ごめんなさい、なんか、だるくて」
「少しは懲りたか?」
項垂れる優生の体をブランケットにくるんで抱き上げる。
一日に二人も相手すれば疲れてしまうのも無理はないことだと思った時、また俊明とのことが甦ってしまった。
つき合い始めて半年と経たないうちに、二度も他の男に体を許すとは思いもしなかった。襲われかけたのも合わせるなら、三度他の男の自由にさせたということになる。
もう、完全室内飼いを撤回することはできそうになかった。また誰かの気を引くかもしれないと思っただけで体中が熱く滾って、野蛮な気分にさせられる。
優生を抱いたままで浴室の前でブランケットを落として浴室へ入った。一旦、浴槽の縁に腰掛けて、優生の足元からシャワーをかけてやる。湯はまだ半分ほどしか張れていなかったが、そのまま入ることにした。
優生の体を後ろから抱くように体勢を直して淳史の胸に凭れさせる。ゆったりと身を預けてきたのも束の間、優生の体が不意に力を籠めた。
「……っ」
「痛むのか?」
「ちょっと……沁みる」
酷使させてしまったからだとわかっているのに、そこを指で探らずにはいられなかった。
「いっ……いや」
暴れる優生の体を別な腕で胸に閉じ込めるように抱きしめる。指を進めさせまいとするように優生が内側からも拒んだ。
「やめて、ホントに痛いんだ、今日はやめて」
泣きそうな声にも、衝動は止められそうもない。
「俺は足りないんだ」
すっかり熱く膨らんだ欲望は、優生の中に入る以外に治める術はなかった。
「ああっ……」
一際高い悲鳴のような声が響く。
前のめりに倒れ込んでゆく優生の腰を掴んで引き寄せる。浴槽の縁を掴んで逃れようとする優生に、座位は諦めて背後から深く貫いた。
「いや……ぁん、ああ」
痛みに竦む体をやさしく抱いてやりたいと思うのに、濡れた声が淳史の自制を利かなくさせる。
「もう、誰にも触らせるな」
また傷付けてしまうかもしれないと思っても、口をつく言葉は止まらなかった。喘ぐように優生が短い言葉で肯定する。
むしろ、優生がそんな風に言われたがっていたことに淳史は気付いていなかった。


- Bittersweet Honey.6 - Fin ( H19.2.18.up )

Novel


“らぶあんどちぇいん”の続きになっています。
クラップでは濡れ場は書かないと決めていたのに、どうしても心残りだったので書いてしまいました……。