- Bittersweet Honey.5 -



「猫というよりウサギか」
ふと口をついた言葉に、腕の中の優生が首を傾げた。
「……独り言?」
“ウサギ”というのが、まさか自分のことだとは思いもしないようだ。臆病で淋しがりなところは、いっそ兎の方に近いかと思ったのだったが。
「悪い、起こしたか?」
「ううん」
聞かせるつもりで言ったわけではない言葉をくり返すつもりはなかった。
「も、寝るよ?」
許可を求めるような口調に、淳史は2度目のおやすみのキスを唇に返す。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
もう一度、優生は淳史の腕の中で体勢を直して目を閉じた。
今日に限らず、優生は追求するような言葉を口にすることはまずない。相手を詰るとか、恨むような言葉を使うことさえも。それが、性格の穏やかさからではなく臆病さ故かもしれないことに、失いかけて初めて気が付いた。
従順に見える態度から素直な性格だと思い込んでいたが、それも身を守る術のひとつに過ぎず、実はかなり意固地な気性らしい。少なくとも、素直だと言えないことだけは間違いなさそうだった。
髪を撫でてやると、唇が笑みの形を作る。その手を頬に滑らせて促すように上向かせたが、目を閉じた優生はただ為すがままだった。
「優生」
寝入ってしまったらしく、目を覚ましそうな様子はない。
腕の中の、兎だか猫だかわからない、可愛くて生意気な寝顔を見つめる。まだ、愛しているどころか好きの一言さえくれない恋人だが、眠っている時だけは素直だった。抱き直すために、淳史が腕を少し動かしただけで身を摺り寄せてきたり、ギュッとしがみついてきたりする。全身で甘えかかっているというよりは、不安がさせていることなのかもしれなかったが。
一般的に兎は抱かれるのが嫌いだというが、優生には当てはまらないようだ。安心するということを覚え始めたばかりの優生には、まだまだ腕枕と添い寝が必要らしかった。


- Bittersweet Honey.5 - Fin ( H19.1.18.up )

Novel


柔軟性や警戒心の強さでは猫の方に近いのかも。
臆病なところや意外と攻撃的なところも。
もし野良になっても、すぐ捕獲されて家猫になってしまいそうですが……。