- Honey×Honey.6 -



「ねえ、ゆいさん、最近の義くん、フェロモン凄くない?」
隣家を訪れ、お茶とお菓子を前にまったりした午後を過ごす里桜は、義之といる時の緊張感から解放されているせいか、いろいろと緩んでいる。
つい突っ込んだ話をしてしまうのも、こうして臆面もない問いを投げてしまうのも、居心地の良い空間に優生と二人でいるという安心感からだ。
若しくは、イヤだムリだと言いながら、流されるままに濃い性生活を送っている言い訳を優生にしておきかった、というのが本音かもしれない。
二人の前に置かれた、平和な午後の象徴的な麦茶とわらびもちが話題にそぐわないことなど、この際気にしないことにする。

「別に……フェロモンなんて感じたことないけど?」
優生の反応は素っ気なく、まるで里桜の思い違いだとでも言いたげで、ついムキになって力説してしまう。
「でも、目が合ったら身動きできなくなっちゃうし、触られただけで体が熱くなっちゃうし、すぐメロメロになっちゃって、自制が効かなくなっちゃうんだよ?」
「それってフェロモンに関係なく、里桜が義之さんのこと、もの凄く好きってことだろ?ただでさえ、里桜って義之さんの顔っていうか外見がどストライクなんだし、しょうがないんじゃないの?」
言われてみれば、そうなのかもしれない。里桜の知る義之とは若干中身に違いがあるような気はするが、あのルックスが里桜の好みのど真ん中だという事実は今も変わりなかった。
ただ、それを差し引いても、いつの間にか流されてしまうのは外見だけが理由ではないと思う。
「でも、やっぱり義くんはフェロモン溢れてる感じがするんだけど……」
「だとしても、俺、今は淳史さん以外には誰にもそういうの感じないから。もし、義之さんがフェロモン垂れ流してても気がつかないよ、たぶん」
「そっか、ゆいさんとあっくん、超ラブラブだもんね」
優生の同意が得られないのも当然、と思える理由を聞いて、漸く納得がいった。

「ていうか、里桜だって、淳史さんにそういうの感じないだろ?」
「え、あっくんってフェロモン出てたりするの?」
里桜的には、淳史はフェロモン系にはなり得ないのだったが。
「……何気に失礼なこと言われたような気がするけど……それだけ安全ってことなんだよな」
反論しかけて一人で完結してしまう優生の言いたいことは何となくわかるが、それはお互いさまというか、寧ろ嘗ては里桜が危惧していたことだった。

「じゃ、ゆいさんも、あっくんにメロメロになっちゃうんだ?」
「それは……まあ、そうだろ、たぶん」
途端に耳まで赤く染める優生が、ひどく可愛らしく見える。
普段は、からかわれることの方が圧倒的に多い里桜にしては珍しく、優生の弱いところを突いたらしい。
「ねえ、あっくんのフェロモンってどんなの?やっぱ、ゆいさんも暴走しちゃう感じ?」
この機に、隣家の赤裸々な話に発展していくことを期待しつつ、矢継ぎ早に問いを重ねてみる。
それがただの惚気話になるとしても、少々濃すぎる日々に疲弊気味な里桜を癒すひとときになるだろうと思った。



- Honey×Honey.6 - Fin




2010.12.2.update

『幸せの後遺症』中の、平和な(幸せ惚けした)二人の毎日は、きっとこんな感じだと思います……。