- ドラスティック.7 -



テーブルに置かれたカタログを何気なくめくる。
ざっと見る限り、ナースウェアやサンダル、カーディガンなどは女性もので、何故これが黒田の部屋にあるのか理解できない。

――まさか、俺にコスプレさせようとか考えてるわけじゃないよな?

ふっと紫の脳裏を過った疑惑は、日ごろの黒田の言動から鑑みて充分ありえそうに思えた。
今度は1ページずつ、丁寧にカタログを見てみる。
ウェアはワンピースよりパンツスタイルの方が多いようだが、それでも女性用のものばかりのようだった。
エプロンやサンダル、シューズなども、機能的なのだろうが可愛らしいデザインのものが多く、よもや黒田が利用するとは思えない。
それなら何故こんなものが黒田の部屋にあるのかと考えれば、紫の疑惑に信憑性が増す。

――ピンクのワンピなんて着せられたら立ち直れない。

一瞬想像しただけで、気を失ってしまいそうな衝撃に襲われる。
あり得ない。いくら顔立ちが整っていようと、あまり男性的な風貌とは言えないにしても、紫には似合わなすぎる。
いや、似合っていようがいまいが、女装なんて自分には耐えられない。


ひとりで赤くなったり青くなったり、怒ったりヘコんだりしているところへ、部屋の主が戻ってきた。
「早いですね、今日は定時だったんですか?」
涼しい顔で、立ったままの紫の傍に近づく黒田に、おかえりの一言をかけるまでもなく、手にしたカタログをテーブルに叩きつけるように置く。
「あんた、こんなもの、何に使うつもりだよ?」
「何にと言われても、仕事で必要なんですが、何か気に障りましたか?」
不思議そうに紫を見下ろす黒田は、本当にわけがわからないといった顔をしている。
看護師という職業には必要なものが載ったカタログなのかもしれないが、男の黒田が自分で使うものが載っているとは思えないのに。
「これ、女ものばっかじゃないのか?」
「ウェアやシューズの話ですか?制服やシューズは支給されますから、個人では買いませんよ。今要るのは駆血帯とタイマーだけなので、職場の人に一緒に注文して貰おうと思ってカタログを借りていたんですが……後ろの方に、少しだけですが用具類も載っているでしょう?」
改めてカタログをめくってみると、確かに後ろの方に血圧計やら小物類等が載っていた。ほんの数ページなので見落としてしまっていたらしい。
「……くけつたいって何?」
「採血をするときに静脈をわかりやすくするためのゴム管です。心配しなくても、あなたに使うようなものはこれには載っていないと思いますが……ああ、そういうことですか」
漸く思い当たった、とでもいうように黒田が口角を上げる。
「残念ながら、私は女性には興味がありませんので、あなたにナースのコスプレなんてさせませんよ。意味がないというか、むしろ萎えます」
「べ、別に、そんなものを着せられるとは思ってないし」
勝手な思い込みを的確に見抜かれて、焦る舌はうまく言い訳を紡げない。
人の悪い笑みを浮かべた黒田が、紫の耳元で囁く。
「白衣なんて職場で見飽きていますから、私はスーツの方が萌えますよ」
たったそれだけで機嫌を直す自分の単純さに呆れながら、少しでも黒田の要望に合致していることに安堵した。



- ドメスティック.7 - Fin

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2009.12.5.update.

案外似合いそうな気がするのですが、黒の趣味には合わないようです。
やっぱりここはお医者さんごっこでもしてもらった方が楽しいかもしれません。