- Happy Merry Cristmas -

☆女装ネタなので、お嫌いな方はご注意ください。



「……何の嫌がらせですか」
紫の思惑通り、毛布を剥がした黒田は心底嫌そうに眉を顰めた。

この日のために用意した赤と白のモフモフ素材の衣装はもちろんサンタを意識したスタイルで、三十路の紫が素面で着るには少々きついものがあった。
いくら似合っているから大丈夫と励まされてはいても、ホルターネックのワンピースに指穴のついたアームウォーマーなどという、いかがわしくも可愛らしい、黒田の最も嫌悪しそうなコスプレ姿は。

心持ち距離を置いて紫の隣へ腰掛けるのは、女性(を連想する姿)が苦手だからなのだろうか。
ここまで嫌がって貰えれば、仕事帰りはいつも風呂場へ直行する黒田にバレないよう、ひたすら深くソファに凭れかかって首まで毛布に包まって待っていた甲斐があったというものだ。

「何のって、イブだし、このくらい普通だろ?」
気恥ずかしさをごまかすように、白々しいくらいきっぱりと答える。
たぶん、世間一般的にはクリスマスらしい演出を部屋や自分に施すのはごく当たり前のことで、ましてや恋人同士となれば、サプライズを用意しておくのも珍しいことではないだろう。

「そうですね。私たちが“普通の”カップルならそうかもしれませんが」
遠回しに反論を始めた黒田を、遮るように口を挟む。
「あんた、前に俺にコスプレして欲しいみたいなこと言ってただろ?どうせなら本格的にしてやった方がいいと思って、すごーく頑張ってやったんだからな、感謝しろよ?」
恩着せがましい言い方になってしまうのは、紫とて好きでこんな格好をしているわけではないからだ。黒田の嫌がる顔見たさでなければ、恥もプライドもかなぐり捨てて、女装しようなんて思うわけがない。

「それなら、どうしてこんなものを選ぶんですか?せめてショートパンツにでもしてくださればいいものを、さすがにこれでは萎えてしまいます」
恨みがましい視線に、してやったりと、初めて紫が黒田にダメージを与えることができたのだと、胸がすく思いがする。

衣装をいろいろと見て回っていた段階では、可愛らしく大胆なショートパンツのスーツも候補には挙がっていた。
けれども、ショート丈の上着は臍を出すデザインで、さすがに臍と太腿の両方を晒す勇気は持てず、ミニとはいえワンピースの方がマシかと思い、こちらに決めたのだった。
結果的に、それが功を奏したらしい。

「もしかして、じいさんのコスプレの方が良かったのか?でも、俺、白髪も髭も似合わないし、これなら職場で好評だったから、あんたも気に入ると思ったのに」
何気なく明かした言葉で、俄かに黒田の不機嫌の質が変わる。

「まさか、その格好を他で晒してきたんですか?」
「晒したっていうか、受付の女の子に一緒に買ってもらったから現物を受け取ったの職場だし、なんか、その場で着て見せてって感じになって断り切れなくて」
そのときの紫は、内心では他人の目にはどう映るのか知りたくもあり、押し切られるままに試着してみる気になったのだった。やや腐女子っぽい受付の二人ならまあいいかという気の緩みもあったことは否めない。
ただ、折悪しく、たまたま休憩室にやってきた他の男性職員数名の目にも触れることになってしまったのは羞恥プレイ以外の何ものでもなかったが。

「男性もいたんでしょう?」
咄嗟に答えられずに顔を赤らめる紫の反応は肯定以外の何ものでもなく。
「こんな背中も脚もむき出しの格好をして、危ないとは思わなかったんですか?」
「えっ……」
不意に腕を引かれ、バランスを崩して黒田の膝へと顔から倒れ込んだ。
首の後ろで結んだリボンを解かれ、広く開いた背中がいっそう露になってゆく。
生地を下げさせるように撫で降りてゆく手に、背が震える。

「あ、あんた、萎えるって言ってただろ」
しかも、ワンピ姿の紫が相手では、女性を襲おうとしているようなものではないのだろうか。
「ええ、確かに衣装には萎えさせられました。でも、紫さんがまた他所の男を煽ってきたと思っただけで、何度抱いても足りないほど滾ってくるんですよ」
つ、と裏腿を撫でる手に、ワンピースの裾がひどく捲れ上がっていることを知る。

「わ……っ」
ふんわりと広がった裾は、紫がおそらくこの先一生身に着ける機会はないだろう繊細なレースの下着を隠してはくれず、いとも容易く黒田の手を辿り着かせてしまう。
跳ね起きようにも背中越しに下肢を弄る手に阻まれ、逃れることができない。

「下着まで女性ものですか?紫さんに女装趣味があったとは想像もしませんでしたよ」
「ちがっ……あんたが嫌がると思って我慢して……っ」
「そこまで思ってくださるのなら、いっそ何も履かないでおいてくださったら良かったんじゃないですか?」
「バカか……そん、あ、やっ」
小さな下着は中に入ってきた手が奥へ進むのに合わせて下がってゆき、尻を守る役としてはあまりにも頼りなかった。

「まさか、こんな服を着た人に何かする機会があるとは考えたこともありませんでしたが、手間がかからないという利点はあるかもしれませんね」
涼しげな物言いに反して忙しなく動く指は紫の後ろをいやらしく弄り、これなら女が相手でもできるのではないかとツッコミを入れたくなるくらい淀みない。

紫が身を捩るたびに女性もののワンピースはふくらみのない胸元をずり落ち、たくし上げられた裾と共に腹の辺りへ留まってゆく。
手を差し入れやすく、かなりの伸縮性があって、全て取り去ってしまわなくても行為を妨げることもない、女性の衣服というのは、もしかしたら非常に男に都合の良いつくりになっているのではないだろうか。

「はっ……ん、んっ」
性急に愛撫を施された場所は更なる刺激を欲しがって、促されるままに黒田の腕に縋るように身を起こし、膝を跨ぐような体勢を取る。
近付けた内腿に触れる硬い感触はかなり切羽詰っているようで、半信半疑だった紫を驚かせた。

「ヤんの……?俺、女のカッコ、なのに」
「中身は紫さんですから。服など脱がせてしまえば関係ありませんよ」
言い終える頃には、それはもう紫の中に入ろうと、黒田の指に解され開かされた場所に擦り付けられていた。
「ああっ……」
受け入れようと息を吐くのも待ちきれないように、黒田はいつになく強引に、一息に押し入ってくる。
急激な圧迫に馴染めず、反射的に押し戻そうとするような紫の内を乱暴に抉り、堪らず浮かそうとした腰を掴んで無理やり落とさせる。

「……すみません、前言は撤回します。あなたが何を着ていようと、脱がせなくても、私が欲情することに変わりはないようです」
神妙に紡がれる言葉を裏打ちするように、黒田は紫の中を強く擦り上げ、より奥まで穿ってゆく。
変わりはないというより寧ろ激しくなっていると言い返しかったが、紫にはもう反論するような余裕はなくなっていた。



「もし、あなたが女性に生まれ変わったら、私も女性がダメではなくなるような気がしますよ」
されるがままに黒田の腕に預けていた体がきつく抱きしめられる。
こいつから逃れるには、もう性転換でもするしかないのだろうかと、ぼんやり考えていたのを見透かされたみたいなタイミングの良さは、わかりやすいと言われる表情に出てしまっていたのかもしれない。
まだ返事をする気力もない紫は、次は化粧を試してみようかと、性懲りもなく無駄なことを考えた。



- Happy Merry Cristmas - Fin

Novel  


2009.12.17.update.

すみません、季節ネタのつもりが、ちっとも関係ない話になってしまいました。
きっと、このあとケーキとかシャンパンが出てくる……のかな?

次にコスプレ系のネタを書くときは、“お医者さんごっこ”にしたいと思います。
(さすがに紫に化粧させるなんてことはないと思うのでご安心ください。)