- Happy New Year -



「……優生?」
何度となく呼ばれているとわかっているのに、瞼は重く、深くシートに凭れた体と同様、優生の思うようには動いてくれない。
高速道路を走る車の振動は眠気をいっそう加速させ、淳史の呼びかけも寧ろ優生を気持ちよくさせるばかりで、入眠を妨げることはなかった。

今年は初めて淳史の実家に挨拶に行くことになり、緊張のあまり前日は殆ど眠れなかったほどだ。
だから、恙無くとは言い難いにしても何とか無事に挨拶を済ませ、一緒に食事を摂って帰路についたときには安堵のあまり軽く放心状態に陥っていた。
やがて、淳史の車で二人きりになっているということに気付いた優生は、極度の緊迫感から解放された反動か、唐突に激しい睡魔に襲われ、今に至る。
運転をしている淳史に悪いと頭ではわかっているのに、一旦眠りに傾いた体も気持ちも、起きていなくてはいけないという強い意志を保つことができず、引き摺られるように眠りの淵へと誘われてゆく。
相変わらず、優生にとって淳史は睡眠導入剤で安定剤なのだった。



知らぬ間に身を預けていた広い胸は安眠の最強アイテムで、ますます目を覚ましたくなくなってしまう。
ゆらゆらと揺れているのは寝惚けているせいか、一杯だけ飲んだお神酒のせいか、ひどく気持ちが良くて、知らずに口元が笑みの形に変わってゆく。
愛されていると素直に思えるようになってからずっと、優生は幸せの中にいる。

淳史の腕に抱かれたままの背に触れる柔らかな感触と、胸を圧迫してくる硬い胸板に挟まれ、少し息が苦しい。
それでも、そこがベッドだと知っている体はもう起きる気にはなれず、また意識を手放したくなる。

慣れた指にタイを解かれ、襟元を緩められ、胸元があらわにされても、優生の危機意識が働くことはなく、ただその強い腕に抱かれている安心感に身を任せきって、まだ眠りを貪ろうとさえ思っていた。

「まだ寝ているつもりか?」
囁くような低い声は優生の耳を甘くくすぐるばかりで覚醒を促すものにはなり得ず、もっと何か話しかけて欲しいと、見当違いのことが頭を過る。
「あっ……」
平らな胸を這う手に小さな突起を弄られ、きつく摘まれると、否応なしに夢見心地が破られる。
「や、んっ……ああ」
張り詰めてゆく胸の先を濡れた感触に包まれ、吸い上げられると甘い痺れが背を走り抜けた。
堪らず伸ばした手に触れたのは図らずも淳史の頭で、まるでもっと強い刺激を欲しがっているみたいに引き寄せてしまう。

舐めるように肌を辿る大きな手のひらは、忙しない動きで下着の中まで伸びてゆく。
窮屈で邪魔な生地がもどかしげに全て抜き取られ、開かされた脚の間に、淳史は体を挟ませるように覆い被さってくる。

吐息を零すばかりの唇をふさがれ、優しく舐められると、優生は我慢できずに舌を覗かせた。
早く、ふたつの唇の境がわからなくなるくらいに吸い合いたくて、キスの他はすっかり疎かになってしまう。むき出しになった下肢にされようとしていることも、差し迫る淳史の事情も。


「……今年はよそ見するなよ?」
僅かに覗く弱気を、はるかに凌ぐ力強さで抱きしめる腕は今年も優生を閉じ込め続けるだろう。
こんなに甘く、優しく満たされていれば、よそ見をする余裕など生まれるはずがなかった。
「そんな元気ないよ、淳史さん、このごろ頑張り過ぎだもの」
願わくば、今年も過ぎるほどに愛して欲しいと思いながら、そのくせ淳史に無理をさせたくなくて、つい素っ気ない物言いになってしまう。
「なら、精々励むとするか」
優生の葛藤など今の淳史には見抜かれているようで、今夜さっそく、その言葉は実行されることになった。



- Happy New Year - Fin

Novel  


2010.1.1.update.

勢いで、というか、ぶっちゃけかなり切羽詰って書きました。
淳史の頑張りはお好きに想像してください……。
一年の計は元旦にありと言いますが、工藤家は今年は安泰なようですvv