- Honey Sweet Darlin'.2 -



「なに?」
おみやげを手渡そうとした義之を怪訝な顔で見上げる。里桜はすぐには受け取ろうとしなかった。
「ケーキはダメって言ってたからジェラートだよ」
「同じだよ、甘い物はダメって言ったでしょ」
ついこの間まで嬉しそうに瞳を輝かせていたのが嘘のようだ。
玄関先から動こうとしない里桜の背を促すが、話が終わるまでリビングへ向かう気はないようだった。
「そんなに気にしなくても」
「そうやって甘やかすから気持ちが揺らぐんじゃないか」
珍しく、里桜が強い口調で義之に返した。
「ダイエットなんて必要ないよ」
夏休み明けに登校した時に、友人達から顔がふっくらしてきたと言われたことを里桜は物凄く気にしている。確かに、夏休み終了間際の淳史の連日の甘い物攻勢が祟ったらしく、見た目の印象も多少変わったと思う。とはいえ、突然、甘い物断ち宣言をされた時には本当に驚いた。
「だって体重が増えてるんだから戻さなきゃいけないでしょ」
「里桜は元が痩せ過ぎてるんだよ」
スウィーツを目の前にすると義之を二の次にしてしまう里桜を腹立たしく思ったこともあったが、それ以上に嬉しそうな顔を見たいと思っているのに。義之の楽しみに水を差した里桜の級友たちを恨まずにはいられない。
「そんなこと言って、俺がブクブクになっちゃったらどうするんだよ」
「ならないよ、里桜の家系にそういう人はいないってお義母さんも言っていたしね」
「俺が第一号になるかもしれないでしょ」
里桜がそんなにも気にしているとは思っていなかった。
「そんなに心配しなくても、里桜が健康を損なうほどの状態になる前に止めるよ。でも里桜は食事もちゃんと摂っているし、学校が始まったから運動不足も解消されるだろうし、そんなことになるわけないだろう?」
義之の懸命な説得に、漸く頑なだった里桜の表情が少し変わった。
「……ほんと?」
「本当だよ。それでも心配なら、これからは眠る2時間前までしか食べないようにすればいいよ」
ただ、そうすると11時前に眠ってしまう里桜は8時半くらいまでしか食べられないということになるのだったが。帰りが遅くなった日には食事を一緒にすることも難しくなってしまうだろう。それを回避するためには、義之は何としても8時までには帰ってこなくてはならない。
「そしたら大丈夫なの?」
「だと思うよ」
「じゃ、今日は食べても大丈夫?」
さっきまでとは違った色を浮かべた瞳が義之を見上げる。
まだ7時を回ったところで、食事をしてもまだまだ余裕のある時間だった。そう考えた途端にデザートに気持ちがいってしまうところが里桜らしい。期待に満ちた目を向けられると、たとえ過ぎていたとしても駄目だと言えるはずがなかったが。
「大丈夫だよ。でもその前に食事にしてくれないか?」
「うん。今日はオムライスだよ」
里桜はようやくリビングへ向かう気になったらしく、右手におみやげの箱を持って、左手で義之の腕を取った。
やはり、甘い物に目がない食いしん坊な恋人の方がいい。
里桜の嬉しそうな顔を見続けるために、これからはカロリーオフタイプのケーキを探さなくてはと思った。



- Honey Sweet Darlin'.2 - Fin ( H18.10.22.up )     

Novel   


こうして里桜は抱き心地良く変わっていったというエピソードでした。
体重より体脂肪を気にした方がいいのでは、とツッコミたくなりますが……。